エージェント6



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題名:エージェント6 上/下
原題:Agent 6 (2011)
作者:トム・ロブ・スミス Tom Rob Smith
訳者:田口俊樹
発行:新潮文庫 2011.09.01 初版
価格:各\781

 トム・ロブ・スミスは、すごい。『チャイルド44』『グラーグ57』に続いて本書『エージェント6』の三作だけで世界を席巻した作家である。冷戦下のソヴィエト、主人公は秘密警察捜査官レオ・デミトフ。一作、一作を完結して読むことができる。全部接続して読めば、冒険小説界において他の追随を許さない波乱万丈な生涯を読み取ることができる。三作を通して通ずるメインテーマは、妻ライーサとの出会い・恋愛・結婚であり、二人の間にできた子供たちとの家族作りである。

 家族を営むのに、彼のような職業であれば、それは命懸けということを意味する。裏切りと政変により、命がいくつあっても足りないような粛清の嵐のさなかにありながら、国の運命を決するような最前線で仕事を続けねばならぬ彼の毎日は、自己矛盾に苛まれつつも組織の中で生き残るための死闘と言ってもいい非日常性でしかなかった。すべての作品を通じて通底するテーマは、家族への愛に尽きる物語だった。

 本書はその三部作の完結編である。実は上巻だけでも、一冊の大作のようにまたもスケールの大きな物語である。捜査官時代に知人となったジェシー・オースティンという左派であり黒人である歌手の暗殺の気配がする中、友好使節団の団員として参加する妻子たちの身に待ち受ける波乱の運命。背景に見え隠れする国家間の謀略。

 上巻で起こった事件の解決をすることだけを望むレオだったが、渡米を禁じられるばかりか、下巻では、アフガニスタン紛争の渦中、アフガン秘密警察教官として、過去の経験を買われ出動。FBIの思惑とソヴィエトの参入により、揺れ動く世界を背景にして、最大のクライマックスに突入する物語のスケールたるや、もはや新人作家とも言えぬ巨匠の顔さえ見せるトム・ロブ・スミスの豪腕と、恵まれた感受性、繊細さが奏でる協奏曲が乾いた台地に響き渡る。

 ネタに触れたくないので、その苛烈な下巻の内容を語ることはしたくないが、ラストのラストまで裏切りとどんでん返しに満ちた謀略の深さと、時代の影を暗躍する悪の論理に、愛と生存を賭けたレオという個がどこまで立ち向かえるか、手に汗握る展開はこれまで通り。絶体絶命のピンチをスコールのように浴びながら生き延び、勝ち残ってゆく彼の最後のサバイバル魂にまさに乾杯と言いたい巨篇がここに幕を閉じる。

(2013.06.09)