百万遍 流転旋転





題名:百万遍 流転旋転 上/下
作者:花村萬月
発行:新潮社 2011.01.20 初版
価格:各\1,800


 花村萬月バージョンの『人間失格』みたいな話だなあとしみじみ考えていたら、主人公が作中で人間失格という言葉を使い始めた。上巻はほぼセックスに終始し、下巻は、ほぼ覚醒剤に終始するのだが、クスリの描写は興味も経験もなく、読んでいて面白くない。

 しかし、本人の自伝的小説ということで、時空を現実にきっと合わせて書いていることから、内容も相応に現実体験の縛りを受けて書かれた重たい作品であるということだけが、とても生々しく感じられる。

 この主人公・維朔の子供バージョンである『少年曲馬団』の後日談が、本書で語られる他、『百万遍』の前2作である『青の時代』『古都恋情』など、旧作のエピソードにつながる部分も当然出現する。もう誰が誰だったのか、うろ覚えの中でこの大作をシリーズとして継続読みするのは、整合性という見地からはとても辛いものがあるのだが、そういった点を無視しても、なお読み進む推進力は、花村作品であるからこその馬力というようなものか。

 少しラストに向けて、人が多く出すぎたり、エピソードが細かく割られたり、せわしない印象がある部分、上巻の一途なラッシュ感がかえって失われたように感じられるのが残念だが、シリーズ全体を通して、当時の時代背景などが懐かしく、同時代の青春を別のかたちで生きた人間としては、自分を鏡のように見据え直す機会としても本書を愉しむことができる、という妙な魅力をも兼ね備えた大作である。

 大作でなければできない何かを果たしているようにも思うが、京都だけで三部作とまとめ上げて、はい、終わり、という感じがしないところも意味深に思われてならないのだが。と思っていたら、まだまだ続編があるっていうことなのだそうだ。納得!

(2012/01/09)
最終更新:2013年06月08日 11:06