ARAKURE あらくれ





題名:ARAKURE あらくれ
作者:矢作俊彦、司城志朗
発行:早川書房 2011.06.05 初版
価格:\1,600


 矢作と司城の名コンビといえども、時代小説はどうなのかな、と思う。というのはせっかくのレトリックに満ちた矢作エンターテインメントなのに、その肝心のレトリックが抜け落ちて、凡百の時代小説文体になってしまうのは、相当に興趣を削ぐ。

 ただ彼らが書いてきた物語の世界が、もちろんそこにないわけではない。坂本竜馬や土方歳三と出会いつつ、義賊として駆け巡る男二人+女二人のコンビネーション、凶状持ちとして追跡され、追い詰められてゆく様などが、股旅版『明日に向かって撃て』となっているあたりは、転んでもたたでは起きない手練れたちの技であるのかもしれない。

 あるいはレトリックに甘えずに王道から攻めてゆく自信のようなものなのか。彼らのかつての伝説の三部作という重みは最近の作品群にはないにせよ、体力勝負から技術主体へと転換を図った熟年ならではの味が滲み出てきているのっは確かである。

 しかし、三人の幕末アウトローを描きながら、幕末という名の美化された政治闘争とその醜さのようなものを、新選組の拷問シーンなどに絡めて匂わせたりするあたりは、世界への矛盾に怒りを見せる矢作的側面か。

 自分は在日日本人だ、と豪語する矢作は、維新以来の現代日本は、薩摩と長州に乗っ取られた被占領国であるとの意味を込めて、正義ではなく利害によって大政奉還が画策された歴史の裏に潜む真の醜さを暴いてゆく。そんな彼の、怒りの側面を感じさせる終盤が、何とはなしに文明への反骨を感じさせつつ、日本にしか属さない庶民である主人公たちの、個人的なもの悲しさを浮き彫りにして、ハードボイルドにつながる孤高の精神を語り継いでいる気がするのだった。

(2011.10.02)