遥かなり神々の座




題名:遥かなり神々の座
作者:谷甲州
発行:早川書房 1990.8.31 発行
価格:本体\1,650



 ぼくは山やの側からこの作品に出会ったのですが、ぼくのまわりでこの作品に惚れ込んだ人のほとんどは山を経験したことのない人でした。また山岳文学や登山記録など、確かに専門用語の多いものでも、ぼくは山と無縁の人に、単に読書好きだからという理由で本を進めたこともあります。すべてとは言いませんが、絶賛を受けたものもあります。モーリス・エルゾーグの『処女峰アンナプルナ』(白水社)などは、読んだ方から悪評を聞いたことがありませんでした。

 ぼくがここでぜひとも補足しておきたいのは、谷甲州『遥かなり神々の座』は、山を登る人だけが楽しんだ本ではないものであるということです。山を登らない読者には総じてつまらないもの、というわけではないらしいということなのです。

 むしろこの作品は冒険小説というジャンルでは極めて評価されてしまった本ですよね。作者と一献傾けたときには、本業はSFなのに山岳冒険小説を書けという声が多くなって困ってしまった、なんていうことを言われていました。かく言うぼくも山岳冒険小説をと声を大にしてリクエストした一人ですが。

 そしてその実りとも言うべき作品が昨年の続編『神々の座を越えて』だったと思います。英国冒険小説の王道をゆく、大自然相手のディテールの書き込みによる読み応えある冒険小説、というようなものをイメージしておられる方にオススメなのが、この二冊なのですが、どうでしょうか?

(1997.09.08)
最終更新:2013年05月04日 18:29