迎え火の山



題名:迎え火の山
作者:熊谷達也
発行:講談社 2001.8.10 初版
価格:\1800



 月山山麓を舞台にした信仰の物語。ただし乱暴に言ってしまえば、の話である。

 この作者、『ウエンカムイの爪』『漂白の牙』までは日本版シートンである戸川幸夫の正統派後継者になるのかなと思われた。しかし三作目『まほろばの疾風』で東北蝦夷(えみし)の奈良朝廷(坂上田村麻呂率いる)との闘いを描く古代戦記で、読者をあっと驚かせた。

 そして4作目。いきなりの恐怖に満ちたスターティング。これはホラーなのか? と思わせる異様な気配に面食らう。そう、ある段階でこれは<死霊小説>だなとぼくは確信した。ところが、そうも言い切れないものがある。

 終章に近づいて鬼、死霊の伝説が、武家や公家一族の確執に繋がってゆき、東北に流れ落ちた藤原氏の末裔というところに行き着くに至る。これは『まほろばの疾風』で作者がのめりこんだ古代戦記の資料をリサイクル利用した別のかたちでの物語なのだ、と納得。

 日本の古代史というところに焦点を当てるミステリー・ジャンルの作家はあまりいない(ぼくの知る限り)ので、それなりに独自ではあると思うが、あまりに古代史推理の部分にページを裂かれると、少し食傷気味となる。作者の関心イコール読者の興味というところに持ってゆくのには相当の物語性がないと難しいところだと思う。

 この小説はあくまで現代の奇現象や、村での採燈祭をめぐるトラブルなどを扱っているのだが、そちらの主たる物語の方が少し疎かではなかろうかと思われるラストシーンであった。せっかく謎めいたヒロインを配しながら、その行く末がはっきりしないところなど、どうも読み心地悪い。

 かなりいい線まで行っていながら、背景の面白さの方に興味が流れ過ぎ、物語自体のスリルの方は中途半端な印象になってしまったという残念な一冊であった。

(2001.10.08)
最終更新:2013年05月04日 17:59