町でいちばんの美女




題名 町でいちばんの美女
原題 The Most Beautiful Woman In Town & Other Stories (1983)
著者 チャールズ・ブコウスキー Charles Bukouski
訳者 青野 聰
発行 新潮文庫 1998.6.1 初刷
価格 \667

 『パルプ』みたいな自由度の高い散文を書く作家の手になる短編集ってどんなものだろう。そんな気持ちで怖々と手に取ったこの本には、奇妙な味の短編作品が実に30も詰まっていた。

 ショートショートに近いほどに短い作品が多い。でも落ちのあるショートショートに比べて、ほとんど落ちの工夫さえない、だらけたこれらの作品群の方が、遥かに面白く感じられるのは一体どうしたわけだろう。

 ぼくは東京札幌間の高度一万メートルの高さでこれを手に取ったけれど、次々と手を替え品を替え現われるブコウスキー・マジックに魅了されて、ページを繰る手が止まらなかった。ただでさえ眠くなる飛行機上で、ぼくの目をここまで覚醒させてくれるような本は比較的珍しい。

 明らかに飲んだくれて書いたのだろうと思われるような刹那的な作品。ブコウスキー自身の思い出とかエッセイだろうと思われるようなものもある。競馬エッセイ3連発に至っては小説ですらないだろう。一方で諷刺ギャグやパロディによる文明批評と解釈して不思議でないような破壊力のある作品も混じっている。

 性、アルコール、失職、放浪……破れかぶれの敗残の人生に思えるけれども、主人公たちが女性にもてるのも頷ける。ブコウスキーの(あるいは小説主人公たちの)刹那的な生きざまが、人間味に満ちあふれているからだ。いろいろなものに唾を吐きつけるような生き方だけど、どこまでも優しさを感じる。残酷さも。

 これは元々一冊だった短編集を二つに割って再出版した片割れ。もう片割れの方は、もう少し楽しみに取っておこうと思う。

(2000.05.29)