パルプ




題名 パルプ
原題 Hannnibal (1999)
著者 チャールズ・ブコウスキー Charles Bukouski
訳者 柴田元幸
発行 新潮文庫 2000.4.1 初刷
価格 \590

 従来ハードボイルドは抑制の効いた文体で描かれるというイメージがあるかもしれない。冗長な会話を楽しむ探偵も少なくはないが、描写そのものには多くの規律を課しているのが、いわゆるハードボイルド的な文体と言えた。

  その意味ではここまで自由度の高いハードボイルドは初体験かもしれない、ぼくには。

  少なくとも地球を乗っ取りに来たという宇宙人がフェロモンを撒き散らす美女の姿で出現してくる探偵小説というのは、前代未聞どころじゃない。なぜこんなふざけた設定でもぼくはこの小説を許してしまうのだろう。するりと抵抗もなく、いやそれどころか、この好感度は一体何だろう? この面白さは何なのだろう? この不思議な引力はどこから来るものだろう?

  主人公の探偵の時間は、あるいは一日の仕事をさっさと終えることだけのためにあるようなもの。日々の終わりにはバーの梯子という楽しみだけが待っている。飲んだくれたデカダンスな探偵による、死や人生を見つめるセリフの数々が何故かとてもいい。

 アメリカではカルト的人気を誇る作家だとのこと。本作はその遺作長編だとのこと。ジム・トンプスンと同じく、作家の死後も長いこと愛読されそうな予感がする。この作品を機にぼくはブコウスキーの作品を慌てて掻き集めているところだ。

(2000.05.10)
最終更新:2013年05月02日 23:42