ライジング・サン




題名:ライジング・サン
原題:Rising Sun (1992)
作者:マイクル・クライトン Michael Crchton
訳者:酒井昭伸
発行:早川書房 1992.6.30 初版
価格:\2,500(本体\2,472)


 今年の夏、某所で某女性に、思ったより面白いと聞き、一応読んでおくべきかとの意識が生まれ出ていたものに、やっとけりをつけた一冊。<日米経済摩擦ミステリー>などという大袈裟で仰々しい前口上に恐れを抱いてなかなか買う気も起こらない読者なんて結構いるんじゃないかなあ? 何せアメリカ人が書いた日米経済摩擦なんて、日本人にとって期待できるわけはないもの。

 いつだったかC.W.ニコルがTVでグリーンピースをめちゃくちゃ言っていたっけ。今はフランスから日本へのプルトニウム輸送船を見守っているグリーンピースだが、自然保護に名を借りたその正体はジャパン・バッシング団体である、と断言していた。ここまで歴史上鯨を食べていた民族が鯨を殺さなくなることによって、鯨に食されるところの魚やプランクトンが減り、いきなり海の生体系が変わることの方が恐怖である、とニコル氏は言っていた。グリーンピースはその他彼をいろいろな面から脅迫・威嚇しているようなことも暗示していた。

 そういうジャパン・バッシングのピーク期に出された翻訳ミステリーが、本書なんだけれども、いつ見てもアングロサクソンの見た東洋人って言うのはやはり猿のように違和感に満ちているのだな、ということを再認識させられた作品である。本書は日本の読者にとって別に居心地の悪い作品ではなく、まあどちらかといえばアメリカの方が馬鹿なんじゃないのお? と言っている糾弾の書なんであるけれども、クリントン氏などはまあこのへんの馬鹿さ加減にいい加減呆れてしまったアメリカ国民たちが期待を込めて選びだした大統領であるのだから、糾弾なんてものも今に始まったことじゃないのは、どうしたって想像できちゃうのである。(それにしてもちゃんと対立候補を擁立し得る対立政党を持てる国が羨ましいですよね (;_;))

 まあ、以上の「おまーらバカか」を国民内部に、ミステリーの形を取って問いかけたのが本書というわけでしょう。クライトンはぼくは初めて読んだけど、ストーリーテリングは確かに巧いから、読まされてしまう。内容はさして新し味がないのだけど、二百頁も費やしてやっと終わる一日、というような充実はぼくとしてはなかなか味に感じられた。途中、日本文化の説明があるけど、そんなものはぼくらにとっても正誤を正せない印象の問題なのに、何故にアメリカ人は、ここまで西洋文化の「形骸」を充て填めねば満足しないんだろう、くらいの批判精神をぼくは抱いてしまった。一概に言えるかよ、と言えることを全部一概に言ってしまっている小説であり、その辺の基本的なことは、これまでのアングロサクソンが試みた日本人観と全然違わないのである。ええ加減にせいよ! と言っても絶対に理解されないのだろうなあ (^^;)

 でもミステリー自体はきゃれらの言ったように「面白い」に一票です。しっかし、値段が馬鹿に高いや、これ (;_;)

(1992.11.10)
最終更新:2013年05月02日 23:35