レパードを取り戻せ




題名:レパードを取り戻せ
原題:Sea Leopard (1981)
作者:クレイグ・トーマス Craig Thomas
訳者:菊池光
発行:早川書房 1983.10.15 再版
価格:\1,600


 80年代初頭の作品。しかもクレイグ・トーマス作品は一年ぶり。立て続けに読もうと思っていたのが、案外読みにくいコッテリ味の本格冒険小説なので、そう簡単には手が伸びず、ハードボイルド系の読みやすい小説に浮気ばっかりしてしまっていた。そうこうしているうちに上下二巻に分かれた文庫本なども出版されてしまったが、ここにはけっこう長大な、C・トーマス・ファンなら必見の関口苑生氏による基本的な解説が掲載されている。あいにくぼくはこれを書店で立ち読みしかしていないが、今回これを読んでみて案外に楽しめたことなどもあるから、ぜひとも解説だけでも買って取っておこうかと思ったりしている。

 さて本書は例によってケネス・オーブリィというスパイ・マスターがディック・トレイシィよろしく、主役級のスパイや工作員を使って潜水艦の奪い合いに挑むという筋立て。前半はソ連側の工作員が大活躍し、後半は英国側(といっても一人はアメリカ人、一人はオーストラリア人っていうのが皮肉であるが)が名誉挽回するというクラシックなスパイ戦である。ソ連側と合わせて計4名のプロフェッショナルたちが手に汗握る戦いを繰り広げるわけで、大局はオーブリィが握っているだけ。主としてプロたちの個人的な冒険譚がものがたりを紡ぐという運びになっている。

 クライマックスはイーサン・クラークが潜水艦奪還作戦を繰り広げるシーンであり、同時に平行する幾つかの危機が、サスペンスを盛り立てる様は、デビュー作品『ラット・トラップ』を想起させる。またこの同時複数多方向クライマックスというのがこの作家の得意とする点であるのかもしれない。潜水艦内で複雑に絡み合うコード類を拝みながら、 無線で制作者の指示を仰ぐシーンでは、 ぼくはちなみに『ジャガー・ノート』という映画を思い出してしまった。リチャード・ハリスが爆弾除去のプロを演じるのだが、爆弾犯人は彼の元の教官であったという話で、ラストが何ともすぐれもののサスペンスであった。

 などと個人的な映画的記憶などを引き合いに出しながら読んでみた正月娯楽巨篇がこの小説であった。主人公が絞られないのが『ファイア・フォックス』などと違って物足りないかもしれないが、前作の『モスクワを占領せよ』のぐちゃぐちゃしたプロットに較べれば、作戦内容がわりとはっきりしてて、なかなか緊張感を連続させてくれた。まあ、最近のぐちゃぐちゃ小説に較べればかなりやっているのではないか、とぼくは思ってしまうのである。

(1993.01.03)
最終更新:2013年05月02日 23:19