射程圏



題名:射程圏
原題:Nowhere To Hide (1997)
作者:J・C・ポロック J.C.Pollock
訳者:中原裕子
発行:早川書房 1999.5.31 初版
価格:\2,000


 最近ポロックはもうぼくの中で黴が生えてきた存在なのかな、と思うことが最近は多い。この作品にしても、ジェイムズ・エリオット名義で発表された『かくも冷たき心』にしても、こうまで劇画的なエンターテインメントを今さら追求されてしまうと、古き良き冒険小説の時代であるならともかく、さらに強烈でレアなインパクトを前面に押し出してストロングな作品が世を席巻している現在、こうした方向は少々アナクロと感じてしまわざるを得ないのだ、ぼくには。

 ヒロインの職業。そして過去とその特殊能力。ああ、またか、である。ポロックは特殊能力のあるヒーロー・ヒロイン・悪役・その他を登場させないとエンターテインメントを創ることが自分にはできないと確信しているのだと思う。

 せっかくのプロットなのだが、ヒロインの特殊能力はぼくのような斜視的な読者にとっては非常に困るし、もう少し期待されてもいいような超一流スナイパーの存在感の最終的な薄さはいつものことだ。ヒーローはまるで『リーサル・ウェポン』の自殺願望刑事のように過去の傷を負っているのだけれども、それはあまりにも間抜けな過去によるあまりにも間抜けな傷のようにしか見えず、一挙に感情移入の機会をぼくは奪われてしまった。

 そしてご都合の良いヒーローとヒロインをどう合流させるのかと思いきや、大抵のディテールにきちんと説明を付けるポロックの繊細な論理性は誉めたいところだけれども、やはり劇画にしか見えない過剰なほどのサービス精神が今はうるさく感じられる。

 ぼくはこの手の作品だったらもっとずっと荒唐無稽か、もっとずっとリアルなものでないとついて行けない読者になってしまったのだと思う。こういうことはあまり自覚したくなかった。

 なお、この作品はタランティーノが映画化権を取得しているそうである。ポロックという作家の表現力をタランティーノがどう凌駕してみせるか、ぼくにはそちらの方が大いに興味があるし、実際プロットや各シーンについては、ぼくはタランティーノの映像や、あの独特の間について想像しながら読んでしまった。そうして読むとそれなりに味わいが見えてくる。そんな現象がこの作品の非常に強力な救いとなっているように感じてしまった。タランティーノ万歳!

(2000.02.06)
最終更新:2013年05月02日 22:48