病棟封鎖72時間



題名:病棟封鎖72時間
原題:The Patient (2000)
作者:マイケル・パーマー Michael Palmer
訳者:川副智子
発行:ソニー・マガジンズ ビレッジブックス(文庫) 2002.10.20 初版
価格:\880


 他でも書いたけれど、出版社がぼく宛に送ってくる本というのはまずこれは是非売り出したいのだという意欲作・自信作が多い。全米ベストセラーに挙げられながら日本ではなかなか取り上げられない不運な作家であるマイケル・パーマー。医師と作家の二足の草鞋を履いている作家と言えばロビン・クックだけれど、その数年後輩に当たるこの作家によるついに決定的となった作品が本書である、とは巻末解説から。

 さて、ぼくの印象だが、間違いなくこれは決定打。どんなレベルかというとディーヴァーのリンカーン・ライム・シリーズや、ジョン・グリシャムの各作品に匹敵するとでも言っておこうか。スピード感、ストーリー、サスペンス、そして物語世界の深み、医学という専門性。いわゆる医学サスペンスの中でも歴史に残して欲しいほどの傑作!

 懸念されるのはこの邦題のセンスのなさ。『ザ・ペーシェント』で良いではないか。送られて来なければ、ぼくはこのタイトルだと、買わなかっただろうし、読まなかっただろう。作者にハンディを負わせるような説明タイプの邦題は辞めて欲しいところ。

 まず病院内での女医のプロフェッショナリズムはまるで検屍官シリーズのケイ・スカーぺッタのようで、患者それぞれの個性と周りのスタッフのやりとり、到着する救急車のサイレンの音など、分刻みの新展開はまるで『ER』のよう。事件など起きなくてもこの病棟内部の様子だけでも読ませてしまうのだが、ここに希代の暗殺者が登場し、自分の脳腫瘍を治療させるべくテロ行為をスタートさせるというのだから、何をか言わんやである。

 まずは誰がその暗殺者であるのかというフーダニットの面白さがプラスされ、患者それぞれの病魔との闘いに、スタッフらの院内上司の権力との戦いがプラスされと、重層構造の面白さがほぼ同時進行する。このタイトルから窺える封鎖時間は実際には24時間にも満たず、テロリストグループが実際に銃器を取り出し病棟を封鎖するのは巻も三分の二を過ぎたところの終盤である。ここからは『ダイ・ハード』なみの活劇がスタートする。

 要するにミステリーであり、ドラマであり、アクションである。エンターテインメントの一つの完成図であることは間違いない。タイトルのまずさを耐えて是非とも手に取って欲しい、2002年の掉尾を飾る一冊!(と言ってしまおう)

(2002.11.12)
最終更新:2013年05月02日 22:44