パーフェクト・キル



題名:パーフェクト・キル
原題:The Perfect Kill (1992)
作者:A・J・クィネル A.J.Quinnell
訳者:大熊栄
発行:新潮文庫 1994.1.25 初版
価格:\600(本体\583)


 うーむ、やはり、はまれん。どうもクィネルのこの手の直線的な話というのは劇画チックでのめりこむことができない。翻訳のせいかとても読みやすくって、軽くって、内容のゆったりとした流れにも関わらずスピーディであるために、非常に気楽に取りかかることができるのだけど、それがぼくの場合かえって徒になっちゃうようである。ヴァクスとかフランシスのような無骨な文章の方が自分には合うのかなあ。

 それにあまりに強すぎる男、いわゆる戦場のスーパーマンみたいなタイプの主人公は、別に悪くないんだけど、やはりあまり無口すぎるとゴルゴ13のようで、どうも感情移入できない。周囲に配される女たちに較べて、主人公がロボットのようであるのがどうにも物足りない。これでは柘植久慶に毛の生えたような小説ではないか、とさえ思ってしまう。

 同じ特殊能力の男にしてもマレルならこうは書かないよな。ぼくはマレルが好きだから、こういうのはどうも明るく淡白すぎていかんのかもしれない。こういうロボットを無理矢理ヒューマンなストーリーの中で動かそうとするから無理が来ているようにも思う。ぼくはこういう殺人機械のような人を決して嫌いではないのだが、それならそれなりのもう少しマクロ的な国際謀略小説のような、媒体の中で動かして欲しいような気がするみたいだ。

 個人的な復讐の物語や家族愛、友情、悲哀などは、どうも他の作家に任せたい気がするのである。この小説の中の会話、ほとんど演歌だもの。

 また飛行機事故が事実を元にしているということだけど、解説を読まねばわからないほど、あんまり主筋とは関係ないような気がした。

 巻半ばのガードマンたちの活劇シーンがそれなりに楽しめたのも、ヒューマンな部分を排して、あくまでストーリー的な面白さに話がぐらりと揺れてくれたからだと思う。活劇か、ヒューマンか? ぼくにはどうも半端なのはいけないようです。

(1994.09.15)
最終更新:2013年05月02日 22:35