略奪者




題名:略奪者
原題:Goering's List (1993)
作者:J・C・ポロック J.C.Pollock
訳者:広瀬順弘
発行:早川書房 1994.4.30 初版
価格:\1,900(本体\1,845)


 ポロックの『樹海戦線』を読んだ当時は、ぼくは冒険小説とかハードボイルドとかへの傾倒は全くなかった。村上春樹や山田正紀などが面白かった時代に、これも冒険小説とは縁のない友達が「これは面白いんだって噂だ」と貸してくれた。それ以来、ぼくはポロックにはまった。

 でもその後、『ミッションM・I・A』はともかく、これと言ったものはなかった。『復讐戦』では刑事もののような始まり方から傭兵ものへと移行して行く様が斬新で良かった。しかしハードカバー第一作『狙撃』は、狙撃のシミュレーションを読んでいるようで、また、どうも柘植久慶もののようでいまいちストーリー性に粗さを感じた。

 そういう意味ではこの本書はひさびさにポロックの上の部類の作品ではないだろうか。やや諜報戦の説明・解説に鬱陶しさを感じないではないものの、それ自体ポロックの持つ、特有の無骨さと解釈して上げたくなるような、いい作品だとぼくは思ってしまった。

 この作家のナチ関連と言えばデビュー作の『デンネッカーの暗号』なんだけど、あれはまた習作って感じでいまいちであったから、この人が第二次大戦を引きずってこれだけの話を書いたっていうのは久々のような気がする。最近個人的に『幻の標的』『27』『赤い罠』と続けざまに読んでいる本がたまたまナチにどこかで関連しているものばかりなので、ポスト東西対立はナチなのかなあ (^^;)、などと興味深く拝見している次第。とは言え、ナチに引っかけてはいるものの皆、ポスト冷戦の情報戦ということだって考えているに違いないのである。

 このポロックで興味深かったのは冷戦後もなお引き続く米露情報組織の対立の構図で、よくまた調べ上げているというか、情報量だけでもものすごい濃度のある作品であるように思う。

 ところが実はぼくが買っているポロックのいいところというのは、そういうスパイ戦ではなかったりする。一貫してポロックが描くのは、兵隊を裏切りまくる組織であり、その犠牲者とも言うべき一匹狼の兵隊たちであり、そして彼らに対する情であると思う。この本で一番優れている点は『樹海戦線』と同じく、その一匹狼への暖かな視線、そして彼らの悲哀であると思う。犬のように扱われる彼らが地獄の蓋を開けたような戦場に如何にして生存を賭けるか、という物語であると思う。そういう雑草からの視点こそ、この作者の最良の魅力ではないだろうか。

 この作品ではヒーローもヒロインもそう言った雑草であり、その過去、背景もきっちりと描かれている上に、ドイツ、パリ、ニューヨーク、イギリス、ドイツ、テルアビブと世界を股にかけるスケールの謀略戦を楽しむことができる、けっこう優れものの作品だと思う。確かにいいリズムで楽しめる作品ではないかもしれないが、けっこう作者の生真面目さ、無骨さがこういう点に出ちゃうのは、ポロックの場合仕方ないのではないかなあ、などと、贔屓目半分の感想を抱いちゃう。

 こういう小説こそ、新し味はないとは言え、冒険小説のエッセンスを正当に詰め込んだ作品ではないだろうか。

(1994.10.13)