沸点の街



題名 沸点の街
原題 Sacrifice (1997)
著者 ミッチェル・スミス Mitchell Smith
訳者 布施由紀子
発行 新潮文庫 1998.9.1 初版
価格 \895


 どちらかと言えば『エヴァン・スコットの戦争』の流れを継ぐ死闘もの。主人公は、老アウトロー、連続殺人鬼が彼の娘を殺害する。だから復讐。実に単純明快な敵討ち小説である。やっぱり、どんどんシンプル化するアメリカ死闘小説のラインなのである。

 強盗団の首領格である主人公は、初老だし引退を考えて最後のヤマを張る。まずはこのスタート・シーンで、ヒーローであるタイラー・ピアスの魅力が語られてしまう。悪党でありながら独特の倫理を己に課している男……ってアメリカ映画でも非常に多く出てきたりする。古くは『ワイルド・バンチ』のウィリアム・ホールデン、最近では映画『ヒート』のロバート・デ・ニーロなんか、そういう役柄で格好よかったりした。

 まあ、そうした主人公が実に頼もしく、しかも周囲に個性的なキャラクターを配して、物語は、内容の凄絶さに似合わず、奇妙に明るく軽いムードで進む。この作品は言わば荒野の復讐譚なのだから、本来は子を亡くした親の気持ちというところをもう少し前面に出して暗い情念の物語になってもおかしくないところなのだが、実にそうではない。

 本来のアクション、冒険、探索にすべての重心を注いだ、いわゆる本当にB級活劇なんだと思う。1960年代後期にサービス度の高さを誇っていたあのマカロニ・ウェスタンには、サービスの三原則というものがあって、それは「復讐」「残酷」「皆殺し」であった。それらをきちんと整えてみると、意外に物語はからっと乾いてしまうのかもしれない。この『沸点の街』は、そうした娯楽活劇に類する。

 からっと乾いた死闘小説。描かれるのは男の世界。アメリカ版任侠世界。うーん、やはり西部劇が芯になっているのだ。銃を捨てられぬアメリカの本質が、こんな娯楽小説の中にまざまざと浮かび上がってくる今日この頃なのである。

(1999.01.02)