奥津城


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題名:奥津城(おくつき)
原題:A Darker Place (1999)
作者:ローリー・R・キング Laurie R. King
訳者:佐々田雅子訳
発行:集英社文庫2001.8.25 初版
価格:\914


 著者は二つのシリーズを持つミステリー作家という位置づけにあるはずだが、ぼくにとってはこのノン・シリーズ作品が初めてとなる。ところが読み始めてどうもしっくりこない。ミステリーやサスペンスとしての骨組みを中心に話が進んで行くのではなくて、骨に肉付けされたあれこれの精神的遍歴や想念の点描のようなものがやたらめったらとページを埋めてゆく。ストーリー2割に対して想念が8割くらいのアンバランスさに戸惑う。これはもしかして「純文学」というあの忘れていたジャンルではなかろうか、との不安が胸をよぎる。しかもあの「つまらないのは純文学」というシンプルなカテゴリー分けに基づいた意味での。

 ヒロインはカルト教団に潜入する48歳の白髪交じりの女性にして、宗教学の教鞭をとる大学教授。彼女は過去に家族をカルト教団の集団自殺で失い、自分だけが覚醒して生き延びたという悔やむべき過去を持ち、現在もまだトラウマに苦しんでいる。その後FBIの依頼で様々なカルト教団への潜入行を試み、成功や失敗を経験する中で、あるとき銃撃戦に巻き込まれ、重傷を負い、今でもそのときの古傷ゆえに膝に痛みを抱え、片足を引きずって歩いている。いわば過去はたっぷりあるというヒロインなのだ。

 もう二度とないと思われていた潜入行だが、彼女はふたたび足を踏み入れてゆく決意に実を任せ、そこで幼い兄妹に出会い、兄には恋に似た高揚感を、妹には失った娘との再会の幻想を抱いてゆく。このあたりの心理描写がまことに執拗で、それがあまりに「純文学的」なのであり、読者には、いや、ぼくのような読者には退屈でとても辛かったのだ。さらにはカルト教団の狂信の内容である錬金術に触れる部分、抽象的な会話や神学の探求、等々、退屈な部分はさらに増すばかり。

 この調子で退屈さに輪をかけて舞台はロンドンへ移り、女性主人公はあくまで幼い兄妹のガードに徹しつつも、カルトの中心へと次第に迫って行く。FBIを軸にした潜入行でありながら、内部深く潜入する孤独な主人公を描いているせいか、ドン・ウィンズロウ描くところのあの潜入の達人ニール・ケアリーを思い出してしまうのだが、あちらのドライな明るさやリズミカルなアクション、友情や光輝くような出会いの魅力のようなものが、この作品には全く見られない。モノクロでモノトーン。時代の暗さのなかを突き進むヒロインを作者は描いているのだと思うけれど、そのあたりのタフさ加減がどうにも伝わってこない。心苦しさを退屈さが上回る。

 いろいろな賞を受賞しているんだよという帯は、どうも信用ならないものであった。ちなみにMWA、CWA新人賞ダブル受賞だそうである。

(2000.09.11)