ソフト



題名:ソフト
原題:Soft (1998)
作者:ルパート・トムソン Rupert Thomson
訳者:雨海弘美
発行:角川書店 2000.4.25 初版
価格:\1,000


 英国作家によるかなり奇妙な味わいのミステリー。

 『悪党パーカー』風なスタート・シーンは、まるでタイトなノワール。UKでもこういう作風が出て来ているのかと感心。

 しかし途中からノワールのトーンは静かに変わってゆく。章が代わるごとに表情を変える黒猫の眼のような作品。純文学的な深い叙情性に彩られた章は憂鬱のモノトーンが支配するかのようでもある。一方、企業謀略サスペンスと呼んでいいような仕掛けに満ちた章もあって、その向こうで暗躍する悪党どもの影が常にちらつく。

 すべてのそれぞれの人物が、また物語がどう結びついてゆくのか、結末はどうなるのか? というところに興味がゆく。本来はそのはずなんだけど、実際には本筋からの脱線にあまりに傾斜してしまうシーンが多いために、ある意味焦点の絞りにくい印象になってしまっているというのが、本当のところだ。

 広漠感とか寂寥感といったものを感じさせる描写。全体的にぼんやりとした夢の中を泳いでいるような読書感覚であった。ブラック・ジョークめいた結末はかなりにぶっ飛んでいて、まるで長い夢から覚めたかのように痛烈にこちらを覚醒させてくれるのだけれども。

(2000.11.04)
最終更新:2013年04月30日 17:49