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猟鬼




題名:猟鬼
原題:The Button Man (1992)
著者:ブライアン・フリーマントル Brian Freemantle
訳者:松本剛史
発行:新潮文庫 2001.1.1 初版
価格:上\705/下\667


 1.フリーマントルが、とうとう新しいシリーズを始めた。
 2.しかもエスピオナージュではなく、何と警察捜査小説である。

 この二点だけでフリーマントル・ファンならかなり興味をそそられる一冊であろう。実際に、読書を通じてこの新機軸に対する興味ばかりが働いて、何だか邪心ばかりで読んでしまっているような気にさえなってきた。
 そうした新機軸でありながら、よくも悪くもフリーマントルの世界には違いなかった。プロフェッショナルとしての仕事の顔を表とすると、悩みやプレッシャーに抑圧されるような重い重い私生活が、男たちの裏の顔である。

 男たち。一人はロシア民警大佐のダニーロフ。共同の洗濯機が始終壊れているせいで、アイロンも洗濯もなされていないワイシャツを着込んで仕事に赴き、それでも新ロシアに対し誠実に生き直そうという志の見える、真面目な中年刑事。

 男たち。もう一人はFBIロシア課課長のカウリー。ダニーロフの捜査の不足を科学捜査で補うアメリカの捜査側代表。悩める私生活はダニーロフ以上で、別れた妻と再婚した同僚の間で不安定極まりない生活。過去アル中、女性遍歴。今は真面目に人生を再建させようとあがいている若い捜査官。

 そしてKGBのなれの果ての謀略。CIAや国務相の策略。国際性溢れる捜査活動が呼び起こす国対国の思惑。スキャンダラスな事件。エスピオナージュではなくなったものの、殺人事件に対象を変えてはいるがやはりこれはフリーマントルの国際小説だったのだ。

 アメリカ名物のサイコ・キラーがロシアに登場し、クアンティコではFBI行動科学課がプロファイリングを行うという、フリーマントルらしからぬシーンを満載しながら、大筋でやはりやはりと「らしさ」をぼくは呑み込んでゆく。最後の力技は強引過る嫌いもあり、あまりの力技ゆえに難解な部分もあったが、思えば、こうした力技こそがフリーマントルの本質であったのか、と思える。

 すべてが終わってはいない。シリーズであることを予感させるエンディング。次作はロシアン・マフィアに迫るというが、本作でその伏線を十分に感じさせる。すっきりしない読後感は敢えて残されたものなのだと思う。新潮社に一言いたい。おしなべてフ
リーマントルは翻訳が遅すぎるのである。

(2001.01.)