屍泥棒



題名:屍泥棒
原題:The Mind Reader (1996)
作者:ブライアン・フリーマントル Brian Freemantle
訳者:真野明裕
発行:新潮文庫 1999.1.1 初版
定価:\629


  『小説新潮』に連載された日本だけのオリジナル短編集ということだったのだけれど、現在では洋書としても纏まっているようである。要するに日本向けに書かれ、後に本国でも出版になったもの。

 この短編集はクローディーン・カーターという心理分析官を主人公にしたプロファイリング・シリーズで、9月には新潮文庫より『屍体配達人』上下巻が出版されている。長編と短編集は、どうもパラレル・ワールドの別の進行の仕方をしているようだけど、短編を重ねた後に、作者が長編としてきちんと最初から改めてシリーズ化したくなってしまったような痕跡がある。少なくとも長短篇はそれぞれ少しだけ設定が違っている。

 この本で扱われているのはFBIの欧州版とも言えるユーロポール。この超国家的捜査組織は今日実在するのだが、その中の行動科学課に当たる部署については今のところあくまでフリーマントルの創作であるらしい。

 とは言え、残酷な連続殺人を追う人々による組織内部の暗闘とか捜査権の醜い奪い合いなどは、チャーリー・マフィンの所属する組織とあまり変わり映えしない。フリーマントルならではの醜い人間模様はくどいほどだ。こうした葛藤を繰り広げながら同時に殺人を追う。

 短編のせいかどれもこれも解決があまりにも鮮やかで、まるで現代版シャーロック・ホームズを読んでいるような気持ちになってきた。不思議な印象だ。

 この本自体は二年近く前の未読本であったのだけれど、9月同シリーズの長編『屍体配達人』が出版されたために、急遽読むことにしたのだった。短編にしては重々しく、濃過ぎる嫌いがある。主題はいいのだけれど、短編では、というような限界をどの作品からも感じさせられた。



(2000.08.22)
最終更新:2013年04月29日 23:45