裏切り



題名:裏切り
原題:Betrayals (1989)
作者:ブライアン・フリーマントル Brian Freemantle
訳者:飯島宏
発行:新潮文庫 1991年7月25日 初版
定価:\680(本体\660)


 時間をかけてじっくり読みたくなる本に対して、次の展開が知りたいがためにさっさと読んでしまいたい本というのがあるのだが、本書はぼくにとって後者に属する。だがこのことは期待した展開の内容とは全く関係のないことだ。ときにははらはらどきどきの果てにとんでもないどんでん返しが待ち受けていて、読者を圧倒してくれることもあるが、ときには何とかなるのだろうなというこちらの期待を最後まで裏切り続けるという本もあるのだ。そしてこの本はタイトルに違わず、最後までぼくをみごとに裏切り続けてくれた。

 何が書きたいのかなあ、というのが正直なところの感想。だって主役のヒロインは全然魅力的でないばかりか、とても苛立たしい人物で、これはケリガンの『哀しき追跡者』の主役と最悪主人公チャンピオンの座を争います。とっても自己中心的で、幼児的で、最後は不倫で誰も彼もを裏切っていく。そういったすべてが盗聴監視されていて、CIAの幹部に軽蔑を含めた視線で(そうは書いてないが、ぼくにはそう感じられた)皮肉だけを言われる。ああ、フリーマントルってある種の女性にたいしてなにか根深い恨みでもあるのではないかなあ。

 さて語られる物語はベイルートを舞台にした誘拐と人質奪還。これを海を隔てたキプロスから、人質の婚約者であるヒロインが自分も何等かの役に立ちたいと願い、動き回る。しかしキプロスの悪党どもに再三再四だまくらかされて、結局親からくすねた小遣いを浪費してゆく。そのうち主客転倒というべきか、手助けをしてくれたジャーナリストと情交を重ね、助けるはずの婚約者の救出を本当に願っているのかどうか自問せねばならないようになる。「屈折した心理」と言えば聞こえはいいが、これはそれほどのものでもないような気がする。たまにはアクション場面もあるので、そこを楽しんで欲しいのかな? しかしアクション場面だって、読者の共感なしでどうにかなるってものでもあるまいに。そういう読者もいるのだろうけれど。

 チャーリー・マフィンのシリーズも一度ひどい中弛みを見せたけれど、この作品はぼくにはそれ以下であった。せっかくシリーズ外作品も読んでみようという意気込みだっただけに、残念なことこの上ない。あ、そうそう。ストーリー・テリングや心理の異常な動きに関する描写は、さすがにこの作家の持ち味。ただヒロイン主導の描写故に、ラストの人質奪還シーンなどはちょっとわけがわからない部分があって、読み取りにくい。そういう部分はあえて丁寧さを欠いているんだろうが、たいした効果を上げてはいないように思えたのである。ぼくには珍しく、こき下ろしました。

(1991.08.22)