終わりなき復讐




題名:終わりなき復讐
原題:The Bearpit (1989)
作者:ブライアン・フリーマントル Brian Freemantle
訳者:染田屋茂
発行:新潮文庫 1992.7.25 初版
価格:\720(本体\699)

 最近フリーマントルの本はどんどん厚くなってきているような気がする、マフィンものも厚くなってから、 簡単には登場しないようになっちゃったし (;_;)

 『消されかけた男』というのは、 ぼくはあの短さのわりに内容が詰まっていて、 衝撃的で優れているんだ、と思っていたから、最近の長くこってり味わってもらうんだよ的なフリーマントルの世界は、 ただでさえ暗示に満ちたわかりにくいプロットで作られるゆえに、 とっても近寄りがたい大人の雰囲気に満ちてしまっている。 最もフリーマントルはスパイ物ノンフィクションを書いたり調べたりしているので、 一般読者には大変縁遠いスパイという複雑な世界をできるだけちゃんと描こうとしてはいるんだろうと思う。

 さてこの本も、 例によって、大変ウエットなストーリーで、主人公たちの不完全さはまたも際立っており、 ああ、これがフリーマントルの世界なのだな、 と改めて再認識させられた。そういう意味では大変個性的な作家なのだ、彼は。

 全体は読ませる。 600頁の長さはぼくには気にならず、むしろ間を置くとわからなくなってしまいそうな不安のせいで (^^;) とっとと読んでしまった。 そしてこれは明らかに言えるのだが、フリーマントルの本に関しては、 一年も立つとぼくはその内容をきれいさっぱり忘れちまう。なぜかその理由ははっきりわかった。 TOKIOKA さんが言うように、 難しいのだ(^^;) こんな錯綜した絵図をずっと覚えてられるわけがないじゃないか(^^;)

 単細胞さんの評の中の要求はすべて読者の側としてはもう少しすっきりさせよという風に読めるし、 ぼく自身そう感じる部分もあるのだが、逆にそれはフリーマントル的な部分を批判しているようなもので、 それがフリーマントル作品の今後にとっていいことだとは結果的にぼくはあまり思えませんですね。 フリーマントルはあるがままを素直に楽しむことができるのか、できないのか? それだけだと思うし、ぼくはまあ楽しめるのです。しかし忘れてしまうような難しいストーリー構成、 人間関係は少々持ったいない気がする。再読に向いた本なのでしょう (^^;)

 人間関係と言えば、 この本では主人公があまり一本化していなくて、孤独なスパイたちが数人並列的に描かれている。 それぞれに追い詰められた状況で、 それぞれの物語を紡いでゆくのだが、そのへんの人間的個性はさすがにフリーマントルの持ち味である。 崩壊したKGBという巨大組織の非人間的な背景の中で彼らがいかに愚かにその罠に陥っていったかを読みつつ、 フリーマントルのスパイたちへの挽歌をどこか叙情詩のように聞いてみるのもいいと思う。

(1992.08.29)