ジェイド・タイガーの影




題名:ジェイド・タイガーの影
原題:Jade Tiger (1982)
作者:クレイグ・トーマス Craig Thomas
訳者 田中昌太郎
発行 早川書房 1987.5.31 初版
価格 \1,800


 前作ではレパードというハードウェアが登場し、これがほとんどファイア・フォックスと同じ発想であったにも関わらず、それらハードウェア類が大自然を舞台に縦横に活躍してくれたことで、ぼくらはなかなかクレイグ・トーマス作品ならではの大がかりなハード・スパイ戦の醍醐味というものを味わうことができたと思う。ところが本書はソフトウェアのスパイ戦。スパイ戦と言えば、これもC・トーマスはワン・パターンになるのか、いわゆる《もぐら》ものである。

 とは言え本作は従来の《もぐら》ものに大きな一捻りが銜えられており、なおかつ英ソ対決という単純な図式でもないところが、 面目躍如たる部分であろうか? 中国とアメリカが加わり、真贋の情報が飛び交う中で、例によって孤独な工作員たちが闘うドラマといった基調は相変わらず。今回の中国系スパイの中国行はなかなかいいのだが、何となくオーブリーとハイドがスロー・スタートというか、そちらの場面になると息詰まった感じがそことなく削がれる、っていう妙な印象だった。特に最初の内はこちらがなかなか乗れないので困った。『レパード・・・・』の方が全然面白いな、との感じ。

 訳もどこか引っかかるのかな? 『モスクワを占領せよ』の井上一夫氏訳に継いでとっても読み進みにくい訳であった気がする。賛否両論あると思うけれど、ぼくはだいたい菊池光の方が読みやすいみたいです、やっぱり。

 大体80年代初頭のドイツ統一という近未来の話で、それを過去の想像として今読むこの手の小説って大きなリスクを抱え込んでいるんだけど、やはりあるわあるわの問題点。世界情勢の動きは小説よりずっと奇ということになってしまったのだけど、この小説の時点では考えられなかった未来であったろうし、その執筆年代そのものがネタバレになっている欠点は、遅れて来た読者としては敢えて取り除くことができない。

 おかげでこのラスト・シーンのあきれるほどの急速なすぼみ方が、いったい是なのか否なのかぼくはよくわからない。主観で言えば「ひどい安易さ」の一言に尽きるかもしれないし、逆に東洋的感嘆の境地でスパイたちへの同情一気に盛り上がりってことになっちゃうのかもしれない。でもこれは反則だって言われても仕方のないラストではあります。でも、まあここまで読んでみれば、クレイグ・トーマスって作家が、いかにその経緯を読ませる作家であるかはわかって来ている。落し前のつけ方ではなくて、継続するサスペンスという意味では申し分ないのである。

 この点を間違えずにトーマスを見つめてみると、彼はどうみてもかなり技術巧者の冒険小説製造作家なのである。ということで、ぼくの方は『レパード・・・・』から始まったパトリック・ハイド三部作とも言ってしまった方がいいであろう『闇の奥へ』に取りかかります。

(1993.01.12)