ウインター・ホーク




題名:ウインター・ホーク (上・下)
原題:Winter hawk (1987)
作者:クレイグ・トーマス Craig Thomas
訳者:矢島京子
発行 扶桑社ミステリー 1990.2.23 初版 1991.4.25 上/第5刷 下/第4刷
価格 上\660(\641)下\600(\583)


 さてこの作品の方はすごく口込みの評価は低いのだが、 果たしてこの主人公が 『ファイアフォックス』シリーズのミッチェル・ガントでなかったら、どうであったろうか? ぼく個人としてはこの小説だって文句無しに優れものだと思う。中でもソ連の中でガントと同じ目的に向かう運命にあるドミトリー・プリャービンという男のこの小説での活躍ぶりは素晴らしかった。ミサイル・サイロでのラスト・シーンはぼくには忘れられなくなりそうな名シーンでもある。なぜこういう名シーンが、小説評価の段階で無視され『ファイアフォックス』と相対的に裁かれねばならないのか、ぼくは小説の面白さという絶対的価値の上に立ちつつ、いつも大いに疑問に思ってしまう。

 これは『ファイアフォックス』の映画化後に書かれた作品であるが、ガントの変貌はその辺に理由があるかもしれない。映画で採用されたクリント・イーストウッドのイメージを作者が抱えてしまっているような描きぶりなのである。ガントとう男は徹底した飛行マニアであって、大地に達した途端にひどく臆病で無力になってしまう、という一種フリーク的なヒーローであると思う。『ファイアフォックス・ダウン』では飛行から投げ出されたガントが地を這いながら逃げ出す物語であるが、この『ウインターホーク』でも彼は、目的地に着いた途端に無力になってゆく。

 飛行シーンと地べたを這いずり回るシーンのコントラストがガントという男のいわば見せ場にもなっているのである。そして潜入行はハイドと同じくいつも孤独で過酷なものと相場が決まっているのだが、ハイドに較べて闘いの要素は少ないかもしれない。常に「生還する男」であるのかもしれない。そう言う意味では徹底した方位網の中をどうやって彼が逃げ出すのか、という単独サバイバルの物語であり、その背景の謀略と機構の中で闘うのがプリャービンの役柄であるようだ。

 なお、プリャービンは、この後のトーマス作品にも連続して登場する。チョイ役程度であるが、彼の放浪の軌跡がいずれはまた本書同様の大役へと結びついてゆく予感がないでもない。作者はハイド同様、この影の多い人物プリャービンもお気に入りであるのだと思う。 また CIA でのバックホルツの後任となるアンダースも最新作『高空の標的』で姿を見せる。『高空の標的』や、トーマスの今後の作品を味わうなら、やはりシリーズものの一環として本書を楽しむことも重要であると思う。

 そういう意味を抜きにしても、このウインターホーク作戦の破綻のシーンは凄まじいし、 そこから始まるガントのヒット & ランの詳細な描写は手に汗握って一気に読めると思う。ぼくはこういう本は斜に構えずにきっちりと楽しんでしまうのである。

(1993.02.11)