十二の秘密指令



題名:十二の秘密指令
原題:The Factory (1989)
作者:ブライアン・フリーマントル Brian Freemantle
訳者:新庄哲夫
発行:新潮文庫 1994.7.1 1刷
価格:\560(本体\544)


 短編は、贅肉を削ぎ落としたところだけで成り立っているものの方が面白いし、かと言ってプロットみたいな味気のないものでも困る。フリーマントルのこの本は、連作短編なので厳密には短編集とは言い難いのだけど、やはりそのあたりのツボだけはしっかり心得ているなという、まあいわゆるフリーマントルならではの安心感を与えてくれるものだった。

 連作短編というのはいわば一冊で大きな長編としても機能していなければいけないわけだけど、まあ普通に書いた長編に較べると、短編としても機能させているた゚に、見劣りすることが多いのも確かである。この本もそういう意味で長編としては弱いのだとは思う。

 さて驚いたことに、これは『月刊ASAHI』に連載された、純粋に日本向けの作品集である。日本といえば連作短編の王国なわけで (^^;)、フリーマントルがこういう仕事も請け負うというのが意外といえば意外だし、海外売れっ子作家の連作短編というのは日本で輸入でもしない限り、なかなか世の中に産まれ出ないものではないかとも思う。

 フリーマントルというのは経済小説みたいなものも書いたりと、非常に引出の多い作家であるが、こうした連作の形を借りてみると、本当にスパイ小説というものを多種多様な角度から作り出すことができるのであるなあ、と改めて脱帽。

 今やゴルバチョフも過去の感のある現代においては、この本の背景となるソビエト最後の日々といった一エポックが、それなりにフリーマントルならではの適確な時代描写の中にまざまざと息づいていたりして、その辺も、さすが職人技といったところ。よくできた積み木のような軽めの玩具本であった。

(1995.01.21)
最終更新:2013年04月29日 18:27