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DC-3の積荷



題名:DC-3の積荷 (上・下)
原題:A Hooded Crow (1991)
作者:クレイグ・トーマス Craig Thomas
訳者:田村源二
発行:新潮文庫 1994.3.25 初版
価格:各\560(本体各\544)


 昨年の読み残しを片付ける意識で読んだ作品。クレイグ・トーマスという人の本は、これ全部シリーズものと言っていいので、どこかで過去の作品とのつながりを残しながら常に新しい作品へと移動してゆく。そういう作りだから、どうしても順番にこの人の作品を辿っている読者は、スパイ・マスター、ケネス・オーブリィとの工作員たちの未来を次の作品、次の作品へと求めてゆくことになる。途中で抛り出すことのできないシリーズ、ですね、つまり。

 ヒギンズがナイーブな一本気だとしたら、フリーマントルはとってもひねくれた作風であるけれど、クレイグ・トーマスはというと、フリーマントルに少しだけ足 りないだけの2回転半ひねりとでも言っておこうか。

 何がひねていると言って、まずは登場人物たちの人間のできの悪さ。幼児たちの小さなケンカが国際謀略の世界を舞台に拡大されたかと思わせんばかりの、感情の泥沼戦争であり、うらみつらみであり、スパイ工作小説によくあるクールさやドライさなどはあんまり見られないところではないだろうか。だからこの人の主人公たちは「諜報活動中毒」と言われる病的なものなのだ。

 巻き込まれ型というには積極的に関わり過ぎ、国際諜報戦というには、野獣の感情を有し過ぎ、だけどそれがC・トーマスのずっと一貫して描いてきた手法なんだと言われれば、これだけは一つの個性として尊重してやらねばならないような気にもなってくる。

 本作は文体が練れてなく、ストーリーも行き当たりばったりであまりこなれてないような印象の、いわば乱暴な書きっぷりの小説だと思うけど、自分はハイドの下品でがたがた震えるような獣じみた闘いざまは基本的に好きである。こういう荒っぽい冒険小説っていうのも、我国に欠如している一つのイギリス小説の魅力なんだと、今では思っている。

 本当に個人的で、情緒的な闘いで、前から因縁を持ってきた人物にどんどんケリをつけようとしている作者の気持ちだけがよくわかる。オーブリィの死----つまり シリーズの終わりが本当に近づいているのだろうか?

(1995.03.07)