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陰謀の黙示録





題名 陰謀の黙示録 上/下
原題 The Apocalypse Watch (1995)
著者 Robert Ludlum
訳者 山本光伸
発行 新潮文庫 1998.7.1 初版
価格 上\781/下\743

 ぼくにはもうラドラムは読めない。昔、冒険小説読者となったきっかけの作家であるラドラムやヒギンズが、もう読めない作家になってゆく。時代の移ろい。ぼくの読書遍歴の屈曲。作家の側の時間経過。世界の出版事情。いろいろな要素が重なって、いろいろなものを変えてゆく。この激流の最中でラドラムはもうぼくが手離した遠い岩の一部になってしまった。

 フランス・ワールドカップのフーリガン騒ぎで一躍悪名を轟かせたネオ・ナチ。ラドラムが老いて目を向けた悪党は彼らだった。でもネオナチがかつての鷲ノ巣のような要塞/研究所を山奥に築いていて、途方もないハイテクな武器を開発してこれを用いてしまう。こんなSF的な展開に、ぼくはもう着いてゆくことができない。

 かつてのラドラムだってそれは途方もなかったと思う。荒唐無稽とすら言えたと思う。でもそれを補う面白さがいろいろないんちき要素を踏みしだいて作品の強引な強烈さとしてぼくらの前に存在をアピールしていたように思う。そこにはこちらの側の要素も含めてラドラムを受け入れる土壌がその場所その時代にあったからだった。

 ボーンのシリーズ、『暗殺者』三部作。『ホルクロフトの盟約』『マタレーズ暗殺集団』『狂気のモザイク』。ぼくは熱中していた。新潮文庫が純文学路線から世界の冒険小説の翻訳に路線を変えた時期、書店の平積み台のムードさえ一新した気がしていた。世の中に面白い本が溢れているように見えていた。

 もう、そんな時代ではないのだ。少なくともぼくの心はそうした時代をとうに終えて、次の新しい「今の敵」を求めている。それはナチの亡霊などという狂信者でも世界征服組織でもなく、もっと屈折した形のない悪であるのだと思う。

 命を賭した手術から帰還したラドラムが大作をものにした喜びはファンならだれしも感じるところかもしれないが、もはや時代の焼き直しは利かないのだ。新しいラドラムがひたすら読みたいのである。

(1998.08.20)