破滅への舞踏



題名:破滅への舞踏
原題:The Last Tango Of Dolores Delgado (1992)
作者:マレール・デイ Marele Day
訳者:沢 万里子
発行:文春文庫 2002.12.10 初版
価格:\667


 日本ではほとんど無名の作家、と思いきや、文春オーストリア・ミステリ・コレクションの中では唯一既に邦訳作品のある作家なのであった。昨年、『神の子羊』という修道院エンターテインメントが邦訳されているようで、そちらのストーリーから言えば、今のマレール・デイはもうハードボイルドから足を洗ってしまっているのかもしれない。

 その意味ではこの作品はマレール・デイの古いシリーズ。1988~1994年までに4作品出ている女探偵クラウディア・バレンタインのシリーズのうちアメリカ私立探偵作家協会ペーパーバック賞を射止めているのがシリーズ第三作にある本書である。

 女性探偵ハードボイルド・シリーズとしての新鮮味はあまりないかもしれないが、逆にハードボイルドというゆったりとくつろげるチェアに身を委ねて安心感のある読書をしたいという人には、ある程度その質を保証された作品でもある。

 パブに寝泊まりし、死んだ性転換ダンサーの身代わりをやり、金にもならない仕事を深追いする。結果的に金にはなっているのだけれど、その志は、なんだか東直己のススキノ探偵を思い起こさせるものがある。飲み友達であり、気に入った依頼人であるドロレス・デルガド。元男性であるフラメンコ・ダンサーの情熱に魅せられ、彼女の(彼の?)死を追跡してゆくモチーフは圧倒的に個人的なものでありこだわりである。

 シリーズの三作目とあって、離れ離れに暮らす二人の子供や、自由奔放な恋人の存在が遠くにあるものの、あくまでヒロインは孤独で、自分と生活と殺人とをもて余している。好感度満点のハードボイルドだなあ、としみじみ思えてくる。

 こうした情緒だけで引きずると思いきや、なんとラストになって殺人の動機が明らかにされ、これまでどうも環境問題にこだわるオバチャンみたいに思えてきたヒロインの描写がすべて伏線であったことに気づかされる。それとも環境問題とフェミニズムはアメリカからそのまま流れてきた女探偵のステータスなのかな?

 オーストラリア・ミステリ・コレクション三部作、外れなしの快挙であった。わが国もジャパン・ミステリ・コレクションを海外で出してもらえるくらいに頑張れよな、と思うとなんだかそのあたりの希望のなさに胸が痛んでくるのであるけれど。

 今のところ海外に出して恥じない(レベルは高くても海外のニーズに合わないものは抜かす)のは、東直己、打海文三くらいなもののような気がする。

(2003.06.02)