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らせん階段




題名:らせん階段
原題:Some Must Watch (The Spiral Staircase) (1933)
作者:エセル・リナ・ホワイト Ethel Lina White
訳者:山本俊子
発行:ハヤカワ・ミステリ 2003.9.30 初版
価格:\1,200

 1946年に公開されたアメリカ映画『らせん階段』(ロバート・シオドマク監督、ドロシー・マクガイア主演)の原作だそうだが、本よりも映画の方が人気が高かったのかもしれない。ポケミス名画座でも、翻訳要望の強さでは『ハイ・シエラ』に続いて第二位という強力さである。しかもその後TVドラマを含めれば三度もリメイクされている。個人的には1975年の劇場版リメイク作品を見てみたい気がしている。ジャクリーン・ビゼット主演だから。

 なぜさほどに人気が高いかという理由の一つに、当時ヒッチコックを初めとしてまだ、サスペンス映画が誰にも手をつけられていなかったということがあるらしい。謎解き、ハードボイルド、クライム、警察もの、そうしたものの台頭があったにも関わらず、じわじわと襲い来る殺人鬼の恐怖に脅える力なきヒロイン、といった設定はまだ誕生前であった。少なくとも日本に輸入された映画としては初のサスペンス・スリラーであったのだそうだ。

 今、この原作本を読んでみると、サスペンスというよりも三半世紀近く前に作られた古臭いゴシック・スリラーへの興味の方が先に立つ。何となくのんびりとした空気、奇妙過ぎる登場人物たちのデフォルメのやり過ぎ。大袈裟な盛り立てへの空気。まるで今年読んだばかりの『雷鳴の夜』(R・V・ヒューリック著)だ。嵐の夜。荒れ地の中の一軒の屋敷。古臭い住人たち。真夜中を切り裂く奇妙な音。連続殺人鬼の噂。少女の死体。

 古い古い時代に書かれた物語にはなぜか闇がある。行間にこめられた気配の深みも、現代小説のテンポと違い、非常に濃密で、いろいろなものをほのめかしているように感じることがある。会話体が古臭く、どこか奇怪なのも、こうした古い作品に共通するものだ。独特の当時流れていた時計の遅さ。たった一夜の恐怖体験を描くのに、こんな書き方があるものなのだな、と改めて新鮮みに驚いたりもする。古い作品ならではの味、というものだろうか。

 ゴシック・サスペンスなどはぼくは通常読まないのだが、これだけシンプルに、ストレートに、サスペンスそのものを目的として書かれた作品に触れてみると、当時の作者の狙い目の確かさ、ヒッチコック映画たちが生まれゆく土壌、時代そのものの気配がどことなく漂ってきて、それが楽しい。小説とはまさにタイム・カプセルに他ならない、という気がする。

(2003/11/16)