男の争い




題名:男の争い
原題:Du Rififi Chez Les Hommes (1953)
作者:オーギュスト・ル・ブルトン Augusute Le Breton
訳者:野口雄司
発行:ハヤカワ・ミステリ 2003.12.10 初版
価格:\1,000

 ノワールには血腥い裏切りや、暴力がある程度欠かせない部分があると思う。この作品は、それら暗い争いの部分に照準を当てた、破壊的なノワールである。ハードボイルドやアメリカン・スリラーに見られるような死闘小説というべきジャンルを、パリの暗黒街のに持ち込んだ、古いがスタンダードな仁義なき闘いの物語である。

 ムショ帰りのトニーと、親友のジョーを中心とした犯罪者チームは、フランスでは名の知れたプロフェッショナルたちらしく、あっさりと宝石強盗を実行し、地下に潜る。この情報をふとしたきっかでアラブ人三兄弟が、奪取にかかる。血で血を洗う駆け引きがスタートする。大筋はこれだけの物語だ。

 ぶっきらぼうなまでのスターティング。人物たちが、さりげなく、乱暴に紹介されてゆき、物語はテンポよく進む。張り詰めた非情の空気が全編に満ち溢れ、バイオレンスと負の世界観に彩られた男たちと女たちの悲鳴が夜を切り裂く。

 じわじわと追い詰められてゆく恐怖。逃げ場のない明日。悪徳たちの闘いが展開し、ごろごろと転がった死体は、始末もされずにそのまま捨て置かれてゆく。リアルな闘いの描写の果てに、血と腸がはみ出るような凄まじいやりとり。そっけないまでの暴力が、どこまでも地の底を這いずり回る男たちの間で、死の戦慄を奏でてゆく。相手が壊滅するまでの徹底した小戦争。自らの誇りを賭けながら愚かな結末しか待ちやしない、地平の果てへの苦しい旅。

 あまりにもからっとした破滅への狂詩曲。徹底的に感情を排した描写。オーギュスト・ル・ブルトン。孤児として育ち、ホームレスを経て、暗黒街に身を投じた作家であるからこそ書ける過酷であるような気がする。

 ポケミス名画座シリーズ。さぞや、フランス製フィルム・ノワールそのものになったことだろう。赤狩りを逃れてフランスで撮ったジュールズ・ダッシン監督作品。こちらも是非機会を見つけて味わいたいものだ。

(2004/02/01)
最終更新:2013年04月28日 11:18