セメントの女




題名:セメントの女
原題:The Lady In Cement (1961)
作者:マーヴィン・アルバート Marvin Albert
訳者:横山啓明
発行:ハヤカワ・ミステリ 2004.04.15 初版
価格:\1,000

 博打でまきあげたクルーザーに暮らし、ダイビングを楽しむ私立探偵トニー・ローム。舞台はマイアミ、きちんと事務所も用意しているのに、とてもラフな遊び人探偵。そんな陽気な明るい雰囲気のシリーズは、現代でも通用しそうなくらい、テンポのいい軽ハードボイルドの傑作だった。

 事務所で大人しくしているタイプではなく、本当にじっとしていられないたちの探偵だということがわかる。負けず嫌いで、へそ曲がりであり、へらず口を叩くよりも手が出ているタイプなのだろう。若いし、体力もあり、よく走り、よく泳ぎ、よく殴られる。満身創痍の体を引きずりながら事件をストレートに追い込んでゆくそのギャンブル的捜査は、ある意味とても新鮮だ。

 ストーリーもなかなかに粋である。沈没船の財宝を探しに潜った海中10mのところで、セメントの錘をつけられ沈められたばかりのブロンド美女の死体を発見する冒頭から、殺し屋に狙われる探偵。殺し屋たちとは別の粗暴な大男が事件をやっかいにし、探偵はゆきがかり上、リッチな美女の助けを得て、凝りに凝った事件の全貌に迫ってゆく。

 二転三転する仕掛けや、なかなか確定しない真犯人、往生際の悪い悪党といった仕掛けも面白いが、探偵が警察にまで追われて、出口なきマイアミビーチを逃げ回るシーンが迫真の楽しさ。ハードボイルドに冒険小説的味わいも加えて、自然の地形を十分に利用してしっかり腰を据えた物語になっている。このシリーズ、他の作品も読みたくなったほど。

 ちなみに本書はポケミス名画座。主人公の探偵を映画ではフランク・シナトラが演じているそうである。他に『トニー・ローム/殺しの追跡』というシリーズ映画もあるのだそうだ。作者は映画脚本も多く書いている。だからだろう、このテンポのよさ、映画のように味わえるエンターテインメント性の高さを感じるのは。

 地味ながらも当たり。無条件にオススメしたい一冊である。

(2004/06/23)
最終更新:2013年04月28日 11:00