ブルーマーダー





題名:ブルーマーダー
作者:誉田哲也
発行:光文社 2012.11.20 初版
価格:\1,600



 姫川玲子のシリーズが『ストロベリーナイト』のタイトルでドラマ化され、さらに今年は『インビジブルレイン』が映画化された。映画にもなった『インビジブルレイン』は、姫川の許されぬ恋と、彼女の抱える闇というテーマが大写しになった作品であったが、ほぼ原作に忠実に描かれた中で唯一、組対課の刑事・下井の存在は映画化にあたって無視されてしまっている。

 しかし映画であれ、原作であれ、そのラストシーンで解散を余儀なくされる姫川班のその後については、シリーズ追っかけ読者としては極めて興味深い。

 その後のことはテレビドラマでは短編集のようなドラマを組んで、特別番組として、奇しくも映画封切りの本年1月26日の夜に放映された。内容は『感染遊戯』を原作としたものに色をつけたものである。

 本書『ブルーマーダー』は、シリーズのそうした慌ただしい動きの中で前後して出版されている最新作であるから、本当の意味での『インビジブルレイン』の後日談である。しかし後日談という読み方をせず、単独の警察小説として読んでも別に構わないだろう。姫川、菊池、下井、勝俣といった主だった刑事たちのそれぞれの活躍ぶりを見ると、シリーズを順番に読むことをお勧めしたいが、単独で読んでも充分このシリーズのよさは味わえると思う。

 なぜなら今回の殺人犯は、極めて謎に包まれているからだ。そして刑事たちのそれぞれの動きと、一見無縁のように見える殺人犯の動きが、どういうわけか、姫川の移動した先である池袋署管内にどんどん集約してゆく。全部が紐解けるまで、ブルーマーダーと呼ばれる殺人鬼の秘密はわからないのだが、とにかく際立って目立つキラーぶりである。

 まず消されるのが、ヤクザ、暴走族上がり、中国人組織、と暗黒街をのしている現代の反社会団体たちのメンバーに限られている点。またその殺人の残忍さと容赦なさはバイオレンスの極致である。その被害者の数も正確ではなく、もはや都市伝説と化している池袋の夜が、暴力の張り詰めた気配に満ちているのだ。

 本来あるべき暗黒街VS警察という彼我の闘いを無視したその遊撃的な殺人者たちの行動が本書の軸である。スリリングな展開と、いつも用意されてゆく活劇。これら娯楽小説の要素が集まって、パワフルなエネルギーとなっている辺りが、このシリーズの魅力である。

 このように刑事たちがひとつの事件に集約するストーリーを毎度毎度書けるとは到底思えない。次は一体どこへゆこうというのだろうか。

 姫川は、菊池は、勝俣は?

(2013.02.14)
最終更新:2013年02月14日 18:19