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64(ロクヨン)


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題名:64(ロクヨン)
作者:横山秀夫
発行:文藝春秋 2012.10.25 初版
価格:\1,900



 D県警の警務部の広報マン三上を主役とした長編大作。横山秀夫の名を書店で見つけるだけでも嬉しいのに、それが万を持したように、分厚い長編の美しい装丁本となって平積みにされる光景ともなると、一気に心拍数も血圧数値も上がってしまうのじゃないかと心配になるくらいに興奮する。

 そのくらい、本当に久しぶりの著者出版物となるのだ。

 しかもD県警警務部と言えば、『陰の季節』の二渡真治の所属する部署である。『陰の季節』は、D県警シリーズ最初の短編作品集である。しかも横山という作家にとって、松本清張賞を受賞した、記念すべき作品だ。二渡の所属は人事。刑事課ではなく、周辺部署に光を当てた独自の警察小説であるところ、もはや横山作品の王道とも言うべき見所である。

 三上広報官を主役とし、もちろんだからこそ、作者自らが畑としていたところであるマスコミの側の論理も、横山作品の読ませどころとなる。警察とマスコミとの間に浮標する繋留ブイのような存在が、広報官というスタンスになろう。 作家もその傍らに寄り添い、語る。

 今回の素材は、誘拐事件。マスコミがすわとばかりに集まりつつも、誘拐という人命保護の観点から難しい性質を併せ持つがゆえに報道協定が必須とされる特殊な状況であり、だからこそこの作家の腕の見せどころが満載となるのも自明である。

 三上の視点から見れば、あの二渡の不穏な動きであれとてもミステリアスに見える。さらに、誘拐が「64(ロクヨン)」という符牒で呼ばれることになった昭和64年のD県警未解決誘拐事件が、現在になお影を落としている状況もまた、張り詰めた時空を構築する重要要素である。一冊を通して少しも揺らぐことのないこの張り詰めた緊張の中で、人物たちが動き、あがき、闘い、ぶつかり合う。警察とマスコミのドラマであると同時に、メディアという架空人格のような存在感の灰汁(あく)の強さを常に想起させながら、事態はひねりにひねられる。

 そして驚愕のクライマックス。こいつには誰しも唖然とするだろう。ああ、やはり、この小説は横山秀夫であったか、との想いでいっぱいになるラスト。事件を通しながら、常に描いてゆくのは人間であるところ。短編を得意とする作家でありながら、『クライマーズ・ハイ』でも見せた職場間闘争をベースとした横軸に、縦軸である極度の人間ドラマを完成させてしまう力量は長編小説でも見事に花を咲かせるところである。

 堂々の『このミス』1位! 出版後わずか2週に満たない締め切りをものともせず、この順位に躍り出た作品である。多くの読者が待ちに待ったこの作風との再会は、歓喜に包まれたものであったに違いない。この物語が最後に明らかにする驚くべき真相と、人間の水面下の心の真実に辿り着きたいがために、読者は三上とともに困難な隘路を歩いてゆかねばならない。しかし到達点の高みは、容易には得られない価値あるものであるということだけは、保証しておきたい。

(2013.2.13)