約束の森


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題名:約束の森
著者:沢木冬吾
発行:角川書店 2012.2.29 初版 2012.4.25 再版
価格:\1,900



 今や時代遅れはないのかな、と危ぶまれるのが、ハードボイルドや冒険小説にひたすらこだわり、かつヒューマンをテーマに描くという軸だけは決してぶらさない沢木冬吾という作家である。生真面目で丹念ゆえに、書き込みは確かなのだが、ネット社会を中心とする現代のスピードやアップテンポという「快読感」を持たないところが、この人のいいところでもあり、読まれにくい部分でもあるのではないだろうか。

 北の辺境の別荘地を舞台に繰り広げられる秘密組織同士の対決。日本離れしたそんな活劇の設定に、少しそぐわないように見える初老の元刑事。警察組織をベースに、分派し、欲望で集積し合った内なる結社の存在や非存在が、思わせぶりな表現で冒頭から繰り返される。何度も繰り返される暗示は、いずれ訪れるであろうカタストロフへのもちろん伏線だし、そこで疑似家族という形を取らされる主人公らはどうみても、謀略のための捨石であるかに見える。

 他の人生で落ちこぼれた男と青年と娘は、疑似家族を営みながら次第に心を通わせて行く。そこまでならよくあるパターンと言われかねないのだが、この作品の要は、マクナイトというドーベルマンの存在である。マクナイトもまた捨石のような過酷な運命を課せられてきた孤独な猟犬であるのだが、かつて警察犬をともにしていた主人公はこの犬に心血を注ぐ。

 動物を使った小説の場合読者によって好悪の感情が異なると思うのだが、敢えてそのあたりのリスクを冒して、ラストまでその伏線を引っ張ってゆくことで、大団円を骨太にしてゆくストーリー作りは、むしろこの犬という要素がなかったら味気なかっただろうと思わせるそれであった。

 疑似家族と犬。それを取り巻く荒唐無稽にも思われる活劇状況。騙されたと思って読んでみるこんな大時代な仕掛けに満ちた古臭い冒険小説も、たまにはよかろう。志水辰夫を初めとするかつての日本冒険小説作家たちがこうしたピュアな活劇に手を出さなくなって久しい現在(いま)だからこそ、ある種の価値は秘めた一冊なのかなと、思うのだが。

(2012.9.30)