世界でいちばん長い写真






題名:世界でいちばん長い写真
著者:誉田哲也
発行:光文社 2010.8.25 初版
価格:1,300


 タイトルそのままの「世界でいちばん長い写真」を作るだけの小説なんだが、この本のいいところは、ずばり、主人公が中学生の男の子であるというところだ。もちろん「世界でいちばん長い写真」のギネス認定を受けている人はいるんだそうだ。その事実をもとに、作者は、中学生を主人公にした青春小説を書こうと決めたみたいだ。そうして、『武士道シックスティーン』に始まる武士道三部作という女子小説とは一味違った男子の方の物語も書こうとトライしたのだと思う。

 そのトライはいい意味でとても成功していて、やっぱり想像力に長けている、小説家という職業は、女の子であれ男の子であれ、その世代、その時代の、ヒューマンな心の機微というところにかけては、やっぱり優れた洞察力とそれを表現する力とを持っていなければならないのだ、きっと。

 本書では、気の弱い男の子が主人公だけど、彼を取り巻く友達たちも含め、とても強い女の人が印象的に出てくる。いわば『武士道』シリーズの磯山香織みたいに男っぽいおなごである。最後の最後まで格好いい大人の女でありながら、思いもかけぬ人物との間に知らぬ間に恋が芽生えていたらしく、そうして彼女にも女の人という一面が出てくるあたり、中学生のピュアハートから見る狭苦しい視野にはちょっとしたドキドキだったろうと思われる。

 そんなデリケートでマイクロでナノなシーンが連続するところが青春小説やヤングアダルトの読みどころ。大人だったら見過ごしてしまったり、適当に自信過剰でやり過ごしたりする部分を、とても無防備に受けちゃうのが青春であり、新しい経験がいちいち心を荒々しく踏んづけて行ったりするのが、それこそ少年時代なのである。だからぼくは青春小説を読むのがやめられないんだ。

(2012.08.17)
最終更新:2012年12月14日 17:33