警官の条件





題名:警官の条件
著者:佐々木 譲
発行:新潮社 2011.9.20 初版
価格:¥1,900


 『警官の血』続編である。最近、「警官」という文字のついた作品が目立つ佐々木譲であるが、そもそも警察小説の書き手ではない。本来が冒険小説のリーグの若き旗手としてあまりに多くの実績を残した作家である。『エトロフ発緊急電』が当時冒険小説界にもたらした疾風の強さを覚えている人は決して少なくないはずである。日本版『針の眼』と言えるあのエスピオナージュは、今後も永遠の金字塔となるに違いない。

 さてその冒険小説作家が昨今凝っている分野が警察小説である。筆頭は『笑う警官』(『歌う警官』改題)に始まる道警シリーズだが、あちらがテンポのある活劇主体のシリーズであるのに対し、この『警官の血』『警官の条件』のシリーズは、日本の歴史にどっしりと根を下ろした太河小説である。とりわけ前作は父子三代に渡る警官の生き様が、昭和史をなぞる格好で語られる力作として、読書界の話題をひっさらった観がある。

 さて、そのシリーズ、もしくはサーガと呼んだ方がよさそうな安城家の系譜に基づいてページを開いたものの、これはそうした昭和史というところよりも、警官が内部に向かって存在を問うような、むしろ人間哲学のような小説となっている。それ以上に、ミステリとしての読みどころが多く、前作に比べ、はるかにエンターテインメント性が強くなっており、ある意味裏切られ、ある意味楽しめる内容となっている。

 とりわけ若きエリートである主人公の安城和也と対照的な位置に立ち位置を構える一匹狼加賀谷仁という老刑事の存在が浮き立つ。殉職した和也の父とかぶせて、刑事の世代といったところに踏み込み、その世代差のギャップを、ここぞとばかりに楽しんでもらえる構成になっているのだ。

 道警シリーズも楽しく浮き浮きするチーム小説であるのだが、本シリーズは、とりわけ力の入った大作イメージを持ったまま、重たく、おそらく作者にとっても重要な金字塔的要素を強く持っているように思う。昨年の評価も高かった本書は、確かなシリーズ小説として、今後もぜひ書き継がれてゆくことを望みたい。

(2012.8.17)