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猫は忘れない





題名:猫は忘れない
作者:東 直己
発行:早川書房 2011.9.25 初版
価格:各\1,800


 すすきの探偵シリーズは、ちょっと前に昔の話に戻ってしかも文庫化、として話題になった『半端者』が間に挟まったせいか、最近の年取った方の「俺」がどんなだったか失念してしまい、読み始めのあたり、妙に久しぶりのシリーズだなあとの感が強かった。

 今回は、探偵の動機らしい動機が薄いのだが、何せ死体を発見してしまったというのが最初の動機である。さらにその死体である美人スナック・ママは旅行に行くと言い置いて、「俺」に猫を預けていたのだ。便利屋だから、探偵だけが商売ではない、ということを思い出させる出だしである。

 さて、今回は部屋に戻るたびに猫の気配を濃厚にまとわせながら小説は進む。

 作品はいつものように毒々しい悪の気配を匂わせながら、犯罪の底深さを描く主筋とともに、主人公の「俺」らしさをいつものように描き続ける。主人公の「俺」はいまだに携帯を持たず、行きつけのバーである<ケラー>を連絡先とし、その<ケラー>のカウンターに座ると、マスターはピースの缶とサクロンを出してくる。

 アキラさんの店というところでは飲んだくれた店主アキラさんがひっくり返って床に倒れているし、空手家の高田の店はメニューに凝っており女の子も綺麗であるらしい。ママはきれいだが店の女の子は「バレンタイン」などと酒の名前を覚えていないのが<ラグジュアリー寛ぎスポット/ラウンジ ゆり>。素人の教員上がりが間違えて出してしまった<喋りバー>。そして目下「俺」の恋人である華の店。いろいろな風変わりな店がカラフルに入れ代わり立ち代わり出てくるし、いろいろな人種が出てきてそれぞれにその人の人生が用意されてのもこのシリーズの独特な売りであり、それはすべてのハードボイルドのシリーズに共通のものであるかもしれない。

 便利屋探偵はあいかわらずのペースで酒を飲むが、事件はより錯綜を含めてゆき、時代はより捻じ曲がった方向に向かっているような気がする。意外性のある犯人像というのはこの人の小説では珍しいのだが、最近はすべてが珍しい話ばかりになっている。巷のリアルな事件さえもが。それを思うと誠実に時代をなぞっていることになるのかな、東直己という作家は。

(2012.03.26)