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分身




題名:分身
作者:東野圭吾
発行:集英社文庫 2012.02.07 80刷 集英社 1993.09 初版
価格:\695



 WOWOWのドラマでは長沢まさみが二役で主演している。これを全部見終わらないうちに原作の方も楽しんでおこうと思い、いまさらながら1993年の作品を手に取った。

 なるほど作者特有の理系ミステリ。医学ミステリと言ってもいいかもしれない。

 ドラマとは若干設定が異なるものの、自分とそっくりのドッペルゲンガーの存在という不気味さを題材に、人間ドラマの部分を厚く切り取って見せる手法は、さすがである。ミステリというよりも、ヒューマン・サイエンス・スリラーとでも言った方がいいかもしれない。

 ドラマでもそうだが函館や札幌といったぼくにとって、とても懐かしい場所が舞台となる。ドラマでは不必要にテレビ塔や大通公園が背景になったりするところが、火サスなどのトラベル・ミステリみたいで笑えちゃうのだが、小説のクライマックスも、ああ、こんな場所に、二人のヒロインが出会う舞台を持ってきたか、と色彩豊かな作者のロマンチックな趣向が嬉しくなったりする。

 個人的なことだが、ぼくは医療器械の営業をやっていた頃に、この小説でも扱われる不妊治療、体外受精の関連商品にも関わっており、北海道ではその権威は旭川医大である。原作小説では北斗医大となっているが、場所は旭川になっているから、このあたりもリアリティのある設定だ。体外受精の作業についてはあまり触れられていないが、高価な機械を操作しての非常に微妙な作業と、冷凍保存という技術が応用される。現代はまだまだそれらの黎明期であるが、本書が書かれた頃は、まだ夜明け前くらいの時代設定である。最先端医療技術がまだ黒魔術のような不気味な陰りを伴っていた頃の空気が怖いが、実際には海堂尊の『マドンナ・ヴェルデ』のように代理母も体外受精も今や日の当たる場所での堂々たる技術だ。

 生命の誕生に触れるとあって、こうしたミステリには重さがある。その重さを小説という多角的切り口から見ることで、自分の存在のありようを考えたりするのも、また楽しみと言えるのかもしれない。

(2012.03.18)