船戸与一


<血と硝煙の世界……国境の向うの叙事詩>

 船戸与一は、異色だ。早稲田大学探検部出身の彼が、モスクワ経由でソ連入りして国後島のチャチャヌプリを登ったという記事を読んで、彼は小説を書くために、現地踏査を厭わない人だと実感した。未だソ連邦崩壊前夜のことである。彼はその探検行を元に後に『蝦夷地別件』を創り上げた。

 豊浦志朗の名義で『叛アメリカ史』を書いた彼は、先住民族とそれを虐げてきた略奪者たちの構図、その上に成り立った現代史の上に皺ぶく闘争と不条理の歴史に、小説という弾薬をもって風穴をあけようと試みてやまない。恩讐と欲望の果てに沸き起こる血と硝煙の宴を、彼のペンは日本冒険小説の名の下になぞってゆく。他の誰もが決してやろうとはしない世界の果てを自ら旅し、取材し、調査し、彼なりの咀嚼を施す。

 われわれが目撃するのは小説作品というかたちに昇華された彼なりの叙事詩である。現代史の語り部としての、船戸の存在は、日本活字文化において、まさに唯一無二なのだ。

満州国演義



長編




中・短編



エッセイ、他



翻訳


  • 闇の中から来た女 1979.3 ダシール・ハメット