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マドンナ・ヴェルデ





題名:マドンナ・ヴェルデ
作者:海堂 尊
発行:新潮社 2010.03.20 初版
価格:\1,500



 『ジーン・ワルツ』は面白かった。ある意味、反復に陥っている感のある東城大シリーズから、場所もテーマも空気も変えてみたところが斬新に映った。産婦人科領域、つまり人間の誕生というところにテーマを置いたため、全体として東城大シリーズが医療という世界を技術的にも政治的にも競い合うことの多い男性小説とすれば、こちらの世界は女性小説の世界である。本作はその『ジーン・ワルツ』の直列での続編である。

 前作の舞台がマリア・クリニックでの理恵の印象深い日々と不妊治療という神との闘いのような領域でインパクトを残したが、本作はさらに踏み込んだ形で、理恵が医師としてではなく自分の子供を母親のみどりに代理母となってもらうという前代未聞なネタで勝負する。

 ヒロインは理恵とみどりと二人、そして大御所茉莉亜先生も健在ときている。特に男性作家である主人公が丹念に書き綴る、妊娠してからのみどりの日常が秀逸である。みどりは、この作品においては、観音様のように慈愛に満ちた存在として描かれる。まるですべての人間にとっての母であり、海である。誕生を司どるということは、こうまでにも神々しく大きい存在であるものなのかと圧倒される。

 それに比して、産むことのできない理恵の、母への身勝手でクールな態度は何なのだろうと、前作では応援していた理恵がまるで悪漢であるかのように思えてくる。この先、この物語をどのように引っ張っていきたいのか、作者の意図が見えないのだが、前作に続き、けっこうなインパクトを残してなんだか淡々と終わってゆく。その淡々と、というところが一番女性的な強靭さの部分を描いているようでいて、男性目線で見るこの流れがどうも収まりがつかないというか、落ち着かないのである。

 ラストで理恵やマリア・クリニックの今後についての示唆がなされるが、嬰児が果たしてどのような生育を見せてくれるのか、もう一方でのコールドスリープした少年などとも相まって、このシリーズは次第に未来医療小説の側面も見せてくれるのでは、というような別種の期待をも孕んで増殖しつつあるようだ。

(2011/01/24)