カウントダウン





題名:カウントダウン
作者:佐々木 譲
発行:毎日新聞社 2009.09.25 初版
価格:\1,600



 『廃墟に乞う』で直木賞を受賞した佐々木譲。そもそも休職中の警官を主人公に据えた連作短篇小説集『廃墟に乞う』は、表題作はそこそこであるものの、他の短篇は、休職中の警官にしては簡単に難事件を解決して回ってしまうことで、少しこの作家にしては軽い印象が否めなかった。

 しかし、どこかのトラベル・ミステリーにまで作品が堕さずに済んでいるのは、それぞれの短篇作品が、北海道の各地域がそれぞれに陥っている状況や、向き合っている現実、その場所場所の気候風土ゆえに重く振れる人の心の機微という名の振子であったりを、大人の筆で描いているからだと思う。

 いわゆる娯楽小説としての警察ミステリでありながら、社会派と名付けたくなるジャンルでもあったわけだ。

 その短篇集が世に評価されたからか、そのときの題材である破産した町、夕張をモデルに、架空の町に展開する選挙戦を描いたのが本書『カウントダウン』である。選挙小説と聞いただけで、少し引く、というか、うわ、つまらなそう! って思ってしまうのだが、舞台が夕張に酷似した町(小説内では隣接した市となっている)というだけで、かつて夕張の町にシャッターを切り、街中を車で走り回ったぼくは、反応してしまうのである。

 その上、ページを開いた途端に、やはり佐々木譲のペンは、一気に引きずり込んでくる。司法書士事務所を営みながら、市会議員の一期生を勤める若き主人公の下に、謎の男がやってきて、いきなりこう言う。

 「町はもう一回死ぬ」

 雑誌(本の時間)連載時の本書のタイトルは『二度死ぬ町』だったそうである。『カウントダウン』よりはよほど気の利いたタイトルなのになぜ原題を採用しなかったのか疑問だが、とにかくこの謎の男のセリフですべては走り出す。

 夕張で何があったか、なぜあの町は破産したのか、そして現在の夕張の改革がゆるやかな解体でしかない現実を、北海道発の声で語ってくれるのが、この小説であろう。

 『廃墟に乞う』で着目された旧炭鉱町の陥った時代の疾病を、さらに抉り、架空の町の選挙戦という形でこの作品は語ってゆく。鋭い鉤爪で抉ってゆくと言ったほうがいいかもしれない。佐々木譲という作家らしい、斬新な視点での開拓魂が活き活きと頼もしい佳品である。

(2010.11.26)