震える山


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題名:震える山
原題:Out Of Range (2005)
作者:C・J・ボックス C.J.Box
訳者:野口百合子
発行:講談社文庫 2010.04.15 初版
価格:\819

 自然を背景にしたバイオレンスってことで馳星周の『沈黙の森』を読んだあとは、やはり自然を背景にしたあちらの小説を読んでみた。ちょうど新刊が立て続けに二冊も出たのだが、そのうちワイオミングの猟区管理官ジョー・ピケットを主人公にしたシリーズの最新刊『震える山』を読了。

 『沈黙の森』とは同名の作品でもっとずっと(って書くと馳さんに失礼になるかもしれないが、事実なんだから仕方がない)深く感銘を受けたC・J・ボックスの『沈黙の森』は凄かった。というか、このシリーズは凄いのだ。どれをとっても。

 いや、むしろシリーズ外作品である『ブルー・ヘブン』も凄くって、こちらはMWA賞を受賞。なんだかジョー・ピケットのファンとしては納得し難いが、この作品も凄いのだから仕方ないな。

 MWA賞とはアメリカ探偵作家クラブ賞のことで、最近日本でも話題になったものを挙げると、ジョン・ハート『川は静かに流れ』、T・ジェファーソン・パーカー『カリフォルニア・ガール』『サイレント・ジョー』(すごいね、二作だ!)、ランズデールの『ボトムズ』、ジャン・バーク『骨』、トマス・H・クック『緋色の記憶』、ディック・フランシス『不屈』『利腕』『罰金』(さすが大御所だ!)、ミネット・ウォルターズ『女彫刻家』、ローレンス・ブロック『倒錯の舞踏』、ジェイムズ・リー・バーク『ブラック・チェリー・ブルース』、アーロン・エルキンズ『古い骨』、ロス・トーマス『女刑事の死』、エルモア・レナード『ラブラバ』、ケン・フォレット『針の眼』、ロバート・B・パーカー『約束の血』、フレデリック・フォーサイス『ジャッカルの日』、マイ・シューヴァル&ペール・ヴァールー『笑う警官』、ジョン・ル・カレ『寒い国から帰ってきたスパイ』、すごいことにレイモンド・チャンドラー『長いお別れ』も入っている。

 『ブルー・ヘブン』はこれらの作品の仲間入りをしたのだ。

 ちなみに同ペーパーバック賞には、ビル・S・グレンジャー、テリー・ホワイト、ウォーレン・マーフィー、キース・ピータースン、リック・リオーダンなどノワールやハードボイルドの副流を思わせる作家の顔ぶれが、顔を揃えている。

 処女長編賞(いわゆる新人賞)には、ロス・トーマス『冷戦交換ゲーム』、ジョー・ゴアズ『野獣の血』、スチュアート・ウッズ『警察署長』、ジョナサン・ケラー万『大きな枝が折れるとき』、パトリシア・コーンウェル『検屍官』、ピーター・ブローナー『欲望の街』、マイクル・コナリー『ナイトホークス』などがあって、むしろ大衆的にはこちらのほうがベストセラーのシリーズとなって増幅してゆく印象が強い。

 C・J・ボックスもできればジョー・ピケットの処女長編『沈黙の森』でシリーズ作の多いこちらの仲間入りができたほうがよかったのにと思う。

 『震える山』は、まるで若い世代が作成したペキンパ映画のようだった。暴力という意味ではなく叙情という意味でのペキンパである。あの滅び節とでも言おうか、大西部に姿を消してゆく老兵のような存在と、そうした時代が終焉しようとしていることへの、痛いほどの哀愁。

 本書には、本当にペキンパ映画に登場しても何の不思議でもない脇役が登場するのだが、その運命もペキンパ映画のように時代遅れの哀愁をたっぷりと匂わせて、もの哀しい。こういう人物、こうしたガン・ファイトのシーンが描ける作家なのである。なんて奴だ、C・J・ボックス!

 ついでに言えば、一人だけ新任地へ赴くジョーの孤独、家族たちとの様々なトラブル要素とそれを消し去ろうと努力し奔走する様子、それでいて分かち合えない遠距離恋愛のような実感のなさ、そうした部分は、単身赴任で孤独と常に向き合っているぼくのような中年読者にはかなり心に沁みるものがある。本当に巧い作家だ。

 それにしてもラストへの持って行き方だ。魂のこもった個性たちと事件との関わりの中に、ジョーは真実を発見する。最後の手紙は驚きの一通であった。

 ジョーは家に帰る。何だ、結局はそここそが一番感動的なシーンであった。心が割れそうになったり、あったかくなったり、ともかく激しく揺すられるシーンであった。涙が滲んできそうになった。もうイヤになる。

(2010.07.13)