張り込み姫 君たちに明日はない 3


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題名:張り込み姫 君たちに明日はない 3
作者:垣根涼介
発行:新潮社 2010.01.15 初版 2010.1.25 2刷
価格:\1,500

 『君たちに明日はない』の一巻目が出てから早や5年。2.5年ぶりに出た三冊目のシリーズ作品集は、ちょうど本シリーズがテレビドラマ化される機会に合わせて出版されたものなのだろう。なので、第二巻では『借金取りの王子』以外に副題がなかったのだが、本書ではテレビドラマで作品に馴染んだニューカマーをしっかり捕まえようと、ドラマと同じ副題がしっかり接続された。

 小説では顔などのはっきりしなかった人物たちにテレビドラマでは、顔が与えられてしまうのだが、これを無視して読んでも、意識に取り込んで読んでもそれは読者の勝手である。ドラマを気に入るかどうかがポイントかもしれない。ぼくはこのドラマが気に入ったので、村上真介は坂口憲二、芹沢陽子は田中美佐子で読んでみた。前二冊は顔がなかったので、そのままという手もあったけれど、まあドラマがよかったので。

 本シリーズは、リストラ請負会社から、やってきた村上真介と秘書・川田美代子の二人が、いわば各短篇小説の狂言回しの役割となり、主役はそれぞれの仕事を追われようとしている社員たちであり、その個性である。その個性は仕事と密着している場合もあれば、仕事というよりは人生観・世界観の突出が会社とフィットしない場合などもあり、それらが、いつの間にかリストラを題材にしながら、それぞれの人間小説として完成してゆくあたりが面白い。

 もちろんこんな稼業を選択したということに対する村上の自己への疑心が根底にあり、それを仕事を通じて次第に誇りに変えようとする大きな連作としての流れもある。しかしそれらは個々の短篇小説に登場するそれぞれのキャラクターたちの魅力によるものが大きい。南米冒険小説や都市型クライム活劇の傑作を書く作家が、こうした地味なシリーズを書き、その一冊目で山本周五郎賞を獲得してしまったという、皮肉というべき流れも、作品に親しめば、決してわからないでもない。それだけ、このシリーズ世界は既に定着し、安定して一人歩きをしているのだ。

 ちなみに、作者の車好きは知る人ぞ知るところ。本書のうち、自動車整備士を主人公にした一篇では、カキさんという作家が、整備士のお得意さんとして名前だけだが登場してそのフリークぶりを語り、笑わせる。そんな遊び心も含めて、垣根涼介の本来のジャンルであるクライム・ノヴェルとは違った地平での肩の凝らないシリーズながら、作家の幅と奥行きと、双方ともに感じさせる佳品集であった。

 さて、時を経ずして『ボーダー ヒート・アイランド5』というクライム活劇の新作を出してくれた。こちらもシリーズ名表記は初めてとなる。見ていないが映画化されたことによるタイトルの知名度アップが背景にあっただろう。映画化作品はまだ見ていないが、是非、時間を作ってDVDチェックと行きたい。

(2010.07.13)