プロフェッショナル




題名:プロフェッショナル
原題:The Professional (2009)
作者:ロバート・B・パーカー Robert B. Parker
訳者:加賀山卓朗
発行:早川書房 2009.11.15 初版
価格:\1,900

 ついにロバート・B・パーカーがこの世を去ってしまった。近年、四つのシリーズ作品を書き継ぎ、そればかりではなくティーンエイジャー向けの小説や、独立した物語も意欲的に執筆していただけに、急な逝去が何とも残念でならない。

 パーカー作品は、翻訳が早いので、残された未訳の作品はあまり多く残されていないかもしれない。本書はスペンサーの最後の作品になるのか、という想いで、こちらは手にとったのだが、もちろん本書は多くのパーカー作品と同じように、さほど力の入った作品とは言えない。中くらいのドラマに収まっているあたりが、パーカーらしいと言えば、実に、らしい。

 恵まれた環境下にあり、問題のない夫を持つ女ばかりを誘惑したがるジゴロな男が、この作品の目玉的キャラクターである。

 スペンサーとスーザンの愛の形とは対照的な、崩壊する愛の形が、ジゴロの犠牲になった依頼人という姿で、スペンサーの探偵事務所を訪れる。スーザンの心理分析の力を借りながら、スペンサーは、恋愛のオプションが生み出す男女の謎に挑もうとするが、問題のジゴロを何故か憎むことができない。

 そんなこんなの長い前置きの末に、ついに殺人事件が発生する。ある浮気妻を許せないでいた亭主が、殺し屋コンビを雇ったことから、スペンサーの調査もいよいよバランスを崩し始める。

 ゼルというガンマンにブーというタフガイのコンビは、シリーズデビューとなるのだが、とても印象の強い二人である。タイ・ポップやトニー・モリスが友情出演し、もちろんホークも牽制役を買って出る。

 きな臭くなるプロットの中、あくまで人間の弱さが展開を先導する。少し切なく、少し痛い、繊細なラストが、スペンサーの寡黙な窓辺に影を落とす。

 前半と後半がまるで別の物語のようだが、スペンサーが窓から見る光景は、古い思い出の跡地に、新しい見知らぬビルができてゆく変化の跡である。思い出せなくなっている遥かな昔への懐かしみが、スペンサーの老いを表現している気がして、作者の死と合わせて、どこか寂しい。

 これがスペンサーの最後の心象風景となるのだろうか?

(2010.05.07)
最終更新:2010年05月09日 21:53