レポメン




題名:レポメン
原題:The Repossission Mambo(2009)
作者:エリック・ガルシア Eric Garcia
訳者:土屋晃
発行:新潮文庫 2009.10.1 初版
価格:\781

 面白い本というものは確かにある。しかし、その面白い本にも、二種類のタイプがある。読んで何週間か経つとその内容があれほど面白く読んだにも関わらず思い出せない本。もう一方で、何ヶ月経とうと、そのインパクトがいつまでも記憶に残る本。

 エリック・ガルシアの作品は、間違いなく後者である。どの作品も、どの作品も。

 本書『レポメン』も例外ではない。そのインパクトの強烈さは並大抵の物じゃないのだ。

 人工臓器の需要が高まり、多くの人が人工臓器の世話になる近未来という設定。その人工臓器のローンが払えないと、取立人は金の回収を諦め、麻酔銃で眠らせ、腹をかっ捌いて人工臓器を回収するが、それは法律で認められていることであり、罪には問われない。レポメンとは職業としてそれを行う回収人のことである。

 こんな無謀な設定であるばかりか、回収人のおれは、今、命を狙われ、逃走する中で人生を回想している。その回想は、時間軸を無視した形で、まるで切り貼り細工のように描写される。戦車隊従軍から服役してレポメンとなり、五回の結婚と離婚を繰り返すなかで、現状に至るまでの波乱万丈の半生が語られる。

 著者があとがきの中で示すように、この作品は最初に短編小説として発表され、その後あまりの奇怪な設定ゆえに話題となり、テレビドラマ化、映画化などの話となってゆき、最後にはこのような長編小説の形となっ現在の完成形を見る。その歳月たるや12年に及ぶという、この作品の歴史が、作者の思い入れたっぷりに描かれているわけである。

 血まみれで、ほとんど悪趣味としか捉えられかねない残酷な近未来設定にせよ、話が、時系列を無視してあちこちに飛ぶことによる読みにくさにせよ、一筋縄ではゆかない作品なのだが、読んでいる間中愚痴りたくなっていたぼくであれ、読後、半年を経過した今ではなぜか忘れ難い作品となっているのだから、これは奇妙だ。ガルシア・マジックとでも呼びたくなる何らかの技術なのかもしれない。

 そんな不思議な世界、ガルシア流として確立された奇怪な体験に触れることのできる機会としてのこの作品。恐る恐るでいい、途中放り出したくなるほど無節操な構成に見えるかもしれない。でも強烈なインパクトは最後まで約束されているので、信じて読み抜いて頂きたいと思う。

 何せ、私立探偵が実は恐竜であるという設定ですら人に感動を与えられる作者なのだ。人工臓器回収人の話であれ、話が飛びまくり集中力が保てない文体であれ、最後には物語りの必然がしっかりと約束され、そこには感動が約束されていて、何もかもがしっかり奇麗に収まるのだ。その完成度は約束する。

 是非、この難物をご賞味あれ。

(2010.05.07)