インビジブルレイン




題名:インビジブルレイン
作者:誉田哲也
発行:光文社 2009.11.25 初版
価格:\1,700

 女刑事・姫川玲子シリーズとしては短編集『シンメトリー』を挟んで3冊目の長篇となる。毎作ごとに、凝った犯罪に挑む姫川を通して、現代という時代の闇の深さや救いのなさを描きつつ、それでもかつて犯罪被害者であった過去を持つという異色の女刑事のへこたれないタフな生き様が、このシリーズの魅力となっているのはもう間違いない。

 姫川をヒロインに据えつつも、常に犯罪者の側のストーリーを闇の側から描く姿勢、犯罪現場の凄惨な状況といった、誉田哲也ならではの暗黒ぶりも眼を引く素材の一つである。健康な青春少女小説を一方で描きながら、怖いバイオレンスの話をこうしてクールに描き切るあたりにこの作家のプロフェッショナリズムをいつも感じるのだが。

 本作においても錯綜する人間模様、というか、人間関係図は一筋縄では行かず、ラストのドンデン返しにおいては眼を疑うような凝った真相が明らかにされる。そこに至るいくつもの疑わしき人々の影に、この作品では悪のヒーロー像とも言えるヤクザ・牧田が登場する。

 その牧田と姫川との偶然の出会いから、徐々に恋愛に発展しそうになる下りは、本作の一つのトピックだろう。姫川がこれほど女になったというのはシリーズ初である。もっとも、作品の終わりはハードボイルド小説らしく、運命が姫川を遠心力の渦に巻き込み、いつものように警察機構からのスポイルアウトを喰らうことになるが。

 はみ出し刑事というには真っ正直すぎる姫川だが、常に犯罪に対する憎悪を人一倍持つトラウマヒロイン。武士道シリーズにあやかってこちらのシリーズも映画化、うまくゆけばドラマ化なんてこともあるのじゃなかろうか、と淡い期待を描く、ぼくはいつの間にか姫川ファンになっているのだった。

 漫画喫茶の冒頭のシーンから降る雨。それがいつか心の中で降り止まぬインビジブルレインとなる終章まで、事件は姫川の心を揺さぶる。

 丸暴の中年刑事下川との臨時コンビもなかなかに見せ所があるなど、サービス精神にも満ちている。ツボを心得た作品作りがすっかり板に着いた誉田ワールドである。

(2010/04/29)