武士道エイティーン




題名:武士道エイティーン
作者:誉田哲也
発行:文芸春秋 2009.07.30 初版
価格:\1,476

 何故か女心を描くのがとても巧い作家、誉田哲也。しかも若い女性の心理を描くのが巧い。もともと、ぼくがこの作家に注目したのはロック少女をヒロインに据えたミステリー仕立ての青春小説『疾風ガール』だった。その後、『ジウ』や『ストロベリーナイト』などで女刑事を軸にしたシリーズを書いているのに、この作家が女性ばかりを主人公に書いているということに気づいたのが、けっこう遅かった。

 男性作家が女性を描いているのに読者の側が(ぼくがトロいだけだったのかもしれないけれど)気づかないほど、誉田哲也は女性を自然に描き切っているのだろう、とぼくは勝手に解釈することにした。しかしそれも『武士道シックスティーン』に出くわしてからは、ぼくの主張が決してブラフでなかったとわかる。

 それでも周囲に『武士道』シリーズを読んでいる読者がいないので、ぼく個人の思い込みなのかという不安は消えない。ところが、ところがである、ついに『武士道シックスティーン』は映画化されたのである。それもあらゆる誉田哲也作品の中で初の映像化となるのがまさか『武士道』とは、というのは思いがけないものであると同時に、納得のゆくものでもあった。

 剣道、という、言ってみればとても古風な、スポーツというには少し精神面や形式美といったところで、原題の女子高生に受け入れられるかどうかなどわからない冒険を、小説という形で示しつつ、その実、とても親しみやすい文章で、女子高生たちの家族や友達に囲まれた日常を描いてみせるその手腕は、やはり誉田哲也ワールドとしか言いようのないものだったと思う。

 そんなわけでついに映画化。世間で騒がれているわけでもない時期からひそやかに贔屓にしてきた作家が、日の目を見ることほど読者冥利に尽きることはない。

 さてついにこのシリーズも三巻目。大抵、三部作というような形で締め切るのは小説の場合は美しいとされるのかもしれない。本書では、第二作で生じた環境の変化をそのままに繋げるしかないせいか、剣道と試合によるクライマックスへの運びは多少の鈍りを見せる。三作までをイメージしていなかったのかもしれない

 だからこそ、せっかくキャラが立っている二人の少女・早苗&香織を持ってしても全巻この二人だけで突っ走ることはできなかったようで、この作品では、後輩キャラや、早苗の姉でありモデルの緑子、果ては香織の通う桐谷道場の初代・道場主桐谷隆明や、早苗の剣道部の顧問・吉野先生の決闘シーンやらと、まるで短篇小説のようなエピソードがそこここに挟まれており、もちろん、それらは本編とは関係のない全く独立したエピソードですらある。

 いわば、そうした番外編のエピソードのページを借りなければ一冊の本の長さにさえ到達できぬシリーズ三作目、ということで何とも心もとないのだが、人気シリーズゆえに読者の側が求めて得られた無理矢理の三作目と考えれば、こんなものなのかなとも思える。

 この先、大人になった早苗と香織がどこかで相まみえ、切っ先を交し合うなんてストーリーが出るとそれはそれで楽しいのかと思う。さほどにヒロインたちに馴染んでしまった愛読者の微妙な心なのであった。

(2010/04/29)