旧友は春に帰る




題名:旧友は春に帰る
作者:東 直己
発行:ハヤカワ・ミステリワールド 2009.11.25 初版
価格:\2,000

 東直己『旧友は春に帰る』読了。旧友と言っても相手は女性。それもススキノ時代の一世を風靡した「美麗女(はくいすけ)」。「美女」とか「美人」というより、一癖も二癖もある飛び切りの女に関しては、はくいすけ、と呼ぶのじゃなかったか。その名もモンロー。
 初期長篇のヒロインらしいのだが、あまりよくは覚えていない。初期長篇は回想により書かれているので、70年代頃の話のはずである。そこから一足飛びに40年くらい飛び越えた現在となると、さすがに年齢の残した変化はどうしようもない。それでも旧友だからという理由で便利屋のオレは、彼女を救い出しに行く。

 夕張のスキー場マウントレイスイにあるホテルから北海道外のどこかに連れ出して欲しいという緊急の依頼。しかしオレは車の免許も携帯も持っていない。まさに70年代の自分を見るようなアナクロである。

 夕張には車以外でどうやってゆくのかわからなかったが、この本によって行き方がわかった。夕張の町には何度も行っているので上京はわかる。季節もわかる。

 雪の夕張から札幌へ。そして函館へ南下して、海峡を渡り、モンローを大間に逃がしてやるまでの逃避行は読者であるぼくの側にも土地鑑があり、その上シリーズとしては異色の下りなので面白い。後半は、ススキノにおけるいつものオレの生活の中での聞き込み調査であり、物語にはどんよりと暗雲が垂れ込み始める。

 暴力の匂いをススキので描くとこの作家は突然活き活きとする。そこには容赦ない悪意のようなものがあり、それはディック・フランシスの小説に出てくる悪党ども、つまりは改善の余地なき悪が描き込まれている。妥協なき真摯がそこにあり、それを凝視していると、小説と現実の境界がぼやけてくる気がする。

 探偵シリーズの中では、ひさびさのヒットなのではなかろうか。

 しかしこの軽ハードボイルド・シリーズ、やはりススキノの脇役たちはいつもいいねえ。いつもずっとススキノの変化を彼ら彼女らを中心に描き続けてくれることを、求めてやまない。

 というわけでGWは9連休を札幌で過ごしてきます。何だか、ほっとしそう。

(2010/04/25)
最終更新:2010年04月26日 00:05