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カッコウの卵は誰のもの




題名:カッコウの卵は誰のもの
作者:東野圭吾
発行:光文社 2010.1.25 初版 2010.1.30 2刷
価格:\1,600

 売れる作家はさすがに違う。電車の中吊り広告二枚分を使って、この本の、そう、まさにこの本だけの広告がなされていたのは年明けすぐのことだった。年の暮れに『このミス』で『新参者』が1位に選ばれたばかりということもあるのかもしれない。とにかく今や飛ぶ鳥を落とす勢いで書き続けている東野圭吾だ。

 本書は、トップ・スキーヤーの娘がマスコミに露出し始めたことにより、同じくスキーヤーであった父親がその隠し通そうとしていた過去を脅かされるようになる。そのざわめきの原因となった初老の紳士が、スキーバスの爆発事故で死を遂げたところから、周辺がきな臭くなってゆく。

 そんなサスペンスが主軸ではあるものの、この作品を通して描かれているのは娘に対する父親の深い愛情である。常にそのあたりを外さずに物語るからこそ東野作品は世に遍く読まれるのだろうなと思う。

 札幌の親子を軸に、新潟からやって来て死亡した家族の風景が謎めいた形で影を落とす。その向うには骨髄移植のドナーを探す少年という現代的なテーマまで現われて、一つのミステリというよりは社会が抱える問題が個に及ぼす様々な葛藤にまで及んでいるところがやはり巧いところか。

 最後の最後までサスペンスよりも娘と父との家族愛のドラマを主軸に謎解きを絡ませて進んでゆくあたり、テレビドラマや映画になって秀逸なシーンを見せてくれるそんな時間が想像できる。これが売れる、作品なのだ、とさすがに思う。

 ある程度普遍的で、重すぎはせず、軽妙でありながら一気読みを強いるような語り口で引っ張る。保証されたミステリだ。

 北海道や雪のゲレンデを舞台にした作品でありながら、ぼくにはそれでも薄味に感じられた。親の愛情を主体に書いているだけに、二転三転する真相究明のドラマはともかく、事件そのものがさほどの凄みを持たないという、この作品唯一の欠点が最後まで全体を軽く纏めてしまったような印象なのかもしれない。小説としては、実に巧いのだけれどね。

(2010.04.04)