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デパートへ行こう!




題名:デパートへ行こう!
作者:真保裕一
発行:講談社 2009.08.25 初版
価格:\1,600

 真保裕一の原点かもしれない。デパートという題材の庶民性。少なくとも都会に住む人の思い出のなかにはデパートという名の、高級で煌びやかで、ちょっと手が届かないフロアの一角に、屋上遊園地やデパ地下の試食コーナーなど、庶民が入り込める余地がある。買い物に出かけるにしても、きちんと身奇麗にして出かけてゆかねばならない少し気取った、それでいて少し幸せと夢の溢れる場所。

 そんなデパートが今、日本各地で倒産し、閉店し、テナントビルやモールに変わろうとしている。こうした時代背景に対し、デパートが生んだ多くの人物への記憶や物語を、真保裕一は、たった一夜の深夜の老舗デパートに展開してみせた。寓話のような、童話のような、レトロでノスタルジー豊かな物語に。

 この作家、『誘拐の果実』『繋がれた明日』といったシリアスで緊張感に溢れたネクラ系の物語を紡いでもそこそこに巧く、そちらが本筋というイメージが強い嫌いもあるのだが、実は、『奪取』で見せたような明るく陽気で、それでいて社会への挑戦意欲に満ちた落ち零れたちの奮起といったものを書かせると、ぴか一である。

 さらに職業人のプロ意識を書かせてもすごい。さまざまな職業(SP、海難救助員、爆発物処理班、消防士)に携わる人で綴った作品集『防壁』は、優れた短編集だと思うし、小役人シリーズと言われた初期の作品にしても、職業を題材にした人間描写がこの人の原点なのではないだろうか。

 その意味で、デパートに関わる職業人たちと、デパートに拘る客たちの物語、それこそ彼らの人生の物語がクロスする場所として深夜のデパートを存分に使ったこの小説は、素晴らしい着想であるし、そこに働く職業人の人生というものは、やはり神保イズムというべきか、これぞ、というものが込められているのである。

 「名作『ホワイトアウト』を超える、緊張感あふれる大展開!」

 と帯にはあるけれど、『ホワイトアウト』のようなシリアスかつシンプルな冒険小説ではなく、どちらかというと人情ドラマの側面が強い。だからこそ、『ホワイトアウト』よりもずっと真保裕一らしい世界がこちらの小説に深く、印象的に拡がっているように思うのだが。

(2010.01.30)