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イノセントゲリラの祝祭




題名:イノセントゲリラの祝祭
作者:海堂 尊
発行:宝島社 2008.11.21 初版
価格:\1,500

 海堂尊の世界も、東城大を越えて、厚生労働省に舞台を移し、いつの間にかスケールの大きな医療小説になってきた。

 『極北クレイマー』とは完全に順序を逆にして読んでしまったが、やはり先にこちらで次に『極北』だったろう。こんなに壮大な構想を『チーム・バチスタの栄光』からこっちまで考えていたわけではなかろうが、医療システムに関する独自の世界観を持っている作者が、厚生労働省がアリバイ稼ぎのようにやっているパブリック・コメントなどよりも、小説のほうがよほどパブリックで広大な影響を与えられると決断し、娯楽小説という大海へ漕ぎ出したのだということがよくわかる。

 それほど小説の背後に大志を抱えているために、本来の小説の醍醐味以上に主張が激しくなってきているきらいはここのところ目立ち始めているかもしれない。しかしこうした形で厚生労働省の官僚たち、国家公務員の独自な暗黒世界にメスを入れ続けるる海堂尊の切り口は、ベテラン外科ドクターのように鮮やかで小気味がいい。

 しっかり固まった、作者から医療へぶつけたい問題意識を、ユーモラスな人物配置と人を食ったような淡々たる文体とで笑い飛ばし、その向うから鋭い視線で睨み倒すというこの独特の空気は、従来の医療ミステリーには全然見られなかったものである。

 叙情に流れることの多い小説家の手を離れ、未だ医療を本職にしながら、現実世界にしっかりと楔を打ち込んでゆく腰の据わった作者の姿勢と、彼の生み出す痛快こそが本シリーズの人気の秘密なのだろうと思う。

 ましてや、政権交代による予算の仕分けが話題となる現在、白昼の元に曝け出されようとしている国家公務員や厚生労働省の内輪の論理が、この小説世界で手厳しく批判される要素までが、びしびしと響き合う。同時代的の作品として厚生官僚たちの見える小説と言ってしまえるだろうか。

 昨年出版された作品ではあるけれども、政権交代の現在に手に取ると、より、なまものとして感じられるものがあると思う。『極北』との読む順序はあながち間違っていなかったのかもしれない、とぼくのなかの読書本能がほくそ笑んでいる気がする。

(2009/12/02)