犬なら普通のこと




題名:犬なら普通のこと
作者:矢作俊彦、司城志朗
発行:ハヤカワ・ミステリワールド 2009.10.25 初版
価格:1,500

 矢作俊彦と司城志朗の合作ではこれが四作目。ぼくが今年のこのミス1位に選んだのは、そもそもこの二人の合作にかつて遠い過去にとっても強烈な印象を受けたことがあり、まさにこのような合作がふたたび四半世紀の時を経て実現するなんて夢みたいなことをこれっぽっちも想像していなかったからだ。

 もちろん昨年、矢作俊彦が『傷だらけの天使』の続編として現代を舞台に、歳を取ったオサムを主人公にした小説を書くなんていう快(怪?)挙についても全く想像の埒外であった。

 だからこそそこが矢作なのだろうとは思うけれど、今回は司城志朗というもう一人の作家の賛同のものとに実現するしかない話だ。それが実現したのだ。ぼくが小説の神様とあがめる矢作の「今」は、実に熱く燃えている。

 彼ら二人の合作が何故いいかというと、一言で言えば日本離れしているのだ。海外の小気味のいいアクション小説をよむように、エンターテインメントに徹していて、それでいて、魅力的な美女が登場し、悲劇にしろ喜劇にしろ、深い闇の穴を穿つ役目を果たしてくれる。敵らしい敵がいて、その凄みを武器にスリリングな恐怖を作り出し、空気を鋼に変える。

 それらのすべてが日本の小説を凌駕したレベルで繰り広げられつつ、それでいてどう見ても日本人の戦後の文化を体現した作家たちとしか思えないペンの走りを見せるのだ。時代があり、国土があり、そこに日本がある。ニホンではなくニッポンと呼びたい類いの日本が……。

 今回は沖縄を舞台にする。花村萬月の『沖縄を撃つ』というエッセイ、馳星周の大作『弥勒世』、そうした戦後を色濃く残す代名詞のような地名、それがOKINAWA!

 アメリカという女との結婚に失敗しつつ未練を残しつつ、毅然と誇りの下に立っている騎士。それが矢作だ。そうしたすべてのことが味わえる一作。どんな作家にも成しえない地平への到達感がある。司城志朗含め、これは快挙と言っていい現代の寓話だ。普天間基地移転に揺れる政権交代の日本の秋に、よくぞ照準を合わせて上梓してくれたものだ。

(2009.11.09)
最終更新:2009年11月09日 00:45